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蒼天機兵スカイギア  作者: 風吹
第一章-Lost Memory-
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1st.Gear -逃走-

 少年は駆け抜ける。雲ひとつない晴天の空を。

 正確には少年の操作する兵器が、マッハ1.0に達する速度で、ただひたすらまっすぐに突き進んでいる。

 高度12000メートルの空にある少年の乗る機体は、鳥を模した飛行機であり、その胴体には「BLUE JAYED/a」という文字が刻まれている。

 少年はコクピットの横にある縦向きのスロットルを握る手を強め、さらに引き絞る。機体は更なる強烈な加速をするが、レッドゾーンで超回転を続けるエンジンも悲鳴をあげる。

「っく、わかってるっての!」

 少年は機体に向かって叫ぶ。しかし、スロットルは緩めない。緩めたら追いつかれてしまう。追いつかれたらまたあの場所に連れ戻されてしまう。

 そして、少年が何かに気付いたように、左側のモニターに目を移す。すると画面の横から青空を押しのけるように、少年の乗る機体に良く似たそれが映し出される。

 少年の機体とはやや異なり、その機体には「BLUE JAYED/s」とあった。その文字を見て少年が呻く。

「ちっ、もう追いついてきやがったか…」

 少年にこれからどうするか考える暇も与えずに、無線機のコール音がなる。ディスプレイを覗き、発信元の機体番号をみると隣の機体からだった。

 少年はうんざりして、拒否してやろうかと思ったが、格下機は格上の無線を自動でつなぐシステムのため、少年が何もせずそのまま待つと、コール音が止み、ノイズのような音とともに、男の声が聞こえる。

「止まれ。お前は逃げられない」

 呟くような口調で、男の声が聞こえる。とても音速の世界にいるとは思えないような落ち着きぶりが、スピーカー越しからでもわかる。

「テレス、お前が俺の追跡役か?」

「そうだ」

「いい機体に乗ってるじゃねえか。けどな、いくらいい機体に乗ってたって、結局最後にものを言うのは、俺らの腕なんだぜ」

 言いながら少年がさらにスロットルを絞る。エンジンがもうやめてくれと叫ぶが、少年はやめない。ここまで来て捕まるわけにはいかないのだ。

 しばらくして少年が左のモニターに目を移し、先程の機体は映っていないことを確認して、少年は達成感に満ちた笑みから、安堵の息をもらす、のも束の間。

「――!」

 少年の機体の横には、あの「BLUE JAYED/s」の機体が再び、まるで事も無げに並んでいた。

「残念だがこれが現実だ。全ての性能がお前の機体以上の、この『s』の前には、お前の才など通用しない。…そう、たとえば速度」

 テレスはまるで独り言のように呟きながら、左手のレバーと左足のペダルを操作し、そしてまた呟く。

「さあ、昇華しろ。…『5.Hi-TOP(フィフスハイトップ)』」

「なッ…」

 テレスのその言葉に少年は愕然とする。なぜなら、少年の機体の速さの段階を表す1から5までのランプは既に「5」を表示していたからだ。

「さっきまでの加速で『4.TOP(フォーストップ)』だったてのかよ…!」

 少年が呻くが、さっきまでその横にいた機体はもう既にない。そして目の前のディスプレイにはゴマ粒ほどの黒い点が映っている。これがテレスの機体だろう。

「くそが…」

 少年はあまりの性能の差を目の当たりにして吐き捨てるが、まだ諦めてはいなかった。少年はスロットルを全開に握っていた手を緩め、スピードを落とす。すると、テレスの機体との距離が空き、画面のゴマ粒も見えなくなっていた。

「ふん。勝手にどこへでも行きやがれ」

 少年は呟き、機体の舵を切る。いつのまにか相手との通信は切れていた。恐らく送受信圏外になったのだろう。そして機体の向きが変わったところで、再び加速しようとしたときだった。

 再びスピーカーからノイズが聞こえる。

「止まれ。お前は逃げられない。――そういったはずだ」

 テレスの声だ。あれほど距離を空けたはずなのに、もう通信圏内まで追いついてきたのかと、またしても少年はうんざりする。しかしそうではなかった。

 いつのまにか先程のモニターに、並ぶようにしてテレスの機体が映っていた。

 その光景を目の当たりに、ついに少年が絶句する。同じ形式なのに、ランク一つでこうも差が出るものなのか。

「――でもな、いくらいい機体に乗ってたって、結局最後にものを言うのは、俺らの腕なんだぜ」

 少年はテレスと真似て、先程と同じ台詞を、しかし自分に言い聞かせるように呟く。

「やっぱ戦うしかねーか」

 少年は機体の速度を落とした後、操縦席の前の少し離れた場所にあるスイッチを押す。

METAMOR(メタモル)PHOSE(フォーゼ)

 機会の声がそういった直後、鳥を模した機体の下腹部が真ん中から横に開き、その中に収納されていた機械の塊があらわになる。機体の白いボディと同じ色をしたそれは折りたたまれた、人間で言う腕と脚にあたる部分であった。

 その四肢のそれぞれが付け根から外側へとスライドする。移動した四肢はそれぞれ外側へと展開して、伸びをするように真っ直ぐになる。

 そして、先程まで四肢が収納されていた場所に、始めに左右に開いた下腹部のそれぞれのパーツが反転し、その裏側に隠れていた、ロボットの胴体部分があらわになる。その胴体部分が元の鳥を模した形ではなく、人間の身体に近い輪郭に変形しながら閉じていく。

 その胴体に先程の四肢の付け根部分が、対応するそれぞれの場所と連結する。

 羽はそのままに、首が胴体の空洞部分へと収納されて、頭部と胴体部分が首の部分をわずかに残し連結する。その頭部のくちばし部分の先端から、目を模したカメラまでの部分が三等分に分かれ、それぞれ左右と上に展開される。その中に隠れていた、ロボットの顔があらわになり、二つのカメラに光が灯る。

 この一連の動作を3秒と経たずに変形を終えた、羽を生やした巨人が、少年の入力を受け、腰に下げられていた銃を手に取る。

「さあ、いつまでそのすかした態度がもつのかな」

 そういって少年の機体が自動照準のマシンガンを、テレスの機体に向けて掃射する。

 それをテレスは機体を加速させながら、曲線を描いて避ける。そして、機体の先端を少年の機体に向けてそのまま再び加速をする。

「こちらの機体の装甲はお前のそれよりも固い。正面から衝突しても、砕けるのはお前の機体だけだ」

 テレスはそう言い、さらに速度を速める。

「ちいっ」

 機体が接触する瞬間、少年は舌打ちををして、スロットルを握る右手を左に引いて、舵を切る。機体が身体を捻り、90度向きが変わったところで、スロットルを強く絞る。それにより足裏のブースターが急噴射しバックステップをする。先程まで機体がいた空間を、テレスの機体が恐ろしい速度で通過する。もし直撃していたら命はなかっただろう。

 そして少年はすかさずマシンガンで反撃をするが、またしても全て紙一重でかわされてしまう。

「さすがは精鋭部隊の一員だけはある」

 そう言うテレスの声には相変わらず感情がない。

「だが、俺もまた精鋭部隊の一員だ」

 少しばかり、声音が鋭くなったテレスの機体が、先程の少年のそれと同じように変形する。風圧の関係で、ある程度速度を落としてから変形に入らなければいけない少年の機体とは違い、根本的に強度に差があるテレスの機体は、高速下でも風圧をものともしない。

 瞬く間に変形を終えたテレスの機体は、全体的に少年のそれと大きな違いはないが、細部に細かな黄色のカラーリングが施されており、その風格が、テレスの機体が上級機であることを改めて物語っている。

 そのテレスの機体が少年へと向き直り、急速に間合いを詰めていく。その両手には少年のと同じタイプのマシンガンが握られていた。そして互いの間合いが交わる瞬間、双方のマシンガンが相手めがけて放たれる。少年もテレスも素早く足元手元の操作をし、狙いを定めたまま相手のマシンガンの弾を紙一重で避けていく。

「これじゃらちがあかねえっ!」

 少年は攻撃の手は休めずに、機体の左手を背中に伸ばす。一拍置いて、羽に格納されていた短剣が飛び出し、その左手に納まる。

 それを振りかぶったまま少年はテレスとの間合いを一気に詰めるべく、ブースターを加速させる。テレスはそれを予測していたような無駄のない動き、かつ寸分違わぬタイミングと照準で、少年を迎え撃つ。それに対して少年は頭で考えるよりも早く、ほぼ直感のままに、最低限の左右の動きで、避けながらテレスのほうへと突き進んでいく。

「――!」

 テレスがいくらか驚いた様子で、機体を後退させるが、少年はそれを読んでいた。

「甘いッ!」

 テレスの加速よりも速いそれで、少年はテレスの機体の懐に潜り込むと、一気に短剣を振り下ろす。

「くっ!」

 テレスはとっさに銃を手にした腕を前に構えて、胴体を守る体勢をとる。その銃は短剣を一瞬だけ受け止めて真っ二つに折れてしまったが、テレスにはその一瞬で十分だった。機体の足のふくらはぎ部分に取り付けられたブースターが瞬間的に爆発するように噴射する。それにより、テレスの機体が横になる。そしてテレスはその体勢のまま少年の機体を蹴りつけ、その反動で二体は互いに吹き飛ばされる。さらに少年の機体はもろに食らったために体勢を大きく崩していた。

「ちっ、やってくれるじゃねえかよ…」

 少年は悪態をつきながらも、素早い操作で機体の体勢を立て直す。しかし、その機体の胸部にはいつの間にか短剣が突き刺さっていた。そしてその破壊された箇所から、漏電による火花が散る。

「なッ…!!」

 少年の機体の目の前に、その短剣を握るテレスの機体があった。

 ありえない。体勢を立て直しているわずかな隙にあの距離を詰められるはずがない。

 少年は頭の中で否定をするが、しかし目の前の存在が、少年にそれが事実であることを残酷に突きつけている。

「外したか」

 テレスが静かに呟く。

「俺とお前の機体の構造は基本的に同じだ。つまり、コクピットの位置も俺の『s』と同じということ」

「…なんでだ」

 少年は呻く。テレスはそれに答えない。

「一撃で仕留めるためにコクピットを狙ったが…おそらく風圧で外れたのだろう」

「うるせえっ!答えろおおおッッッ!!」

「…うるさいのはお前だ。それで、なんだ?」

 吼える少年に、テレスは今その存在に気付いたかのような口調で答える。

「さっきのあの機動力は一体なんだ。あれは『5.Hi-TOP』の限界値を超えていた!」

 その問いかけにテレスは鼻で笑い、答える。

「簡単なことさ。…昇華したんだよ、『6.Over-TOP(シックスオーバートップ)』にね」

「!」

 少年はこの戦いで何度言葉を失っただろう。それもそのはず。『6.Over-TOP』は、機動力があまりにも高性能過ぎるがゆえに、一般の機体の装甲では持ちこたえられずに損壊してしまうため、強度の高い特殊な金属で装甲を持つ一部の機体にしか扱えないのだ。

 目の前にあるその精鋭機が短剣を握る腕に力を入れる。

「連れ戻すか、抹殺するか。それが上からの命令だ。前者の場合、どうせお前はまたすぐに逃げ出すのだろう。だから――」

 言いながらさらに機体の出力を上げるテレスに、少年は「ここで諦めてたまるかよッ!」と、操縦桿のパネルを操作する。

「無駄だ。もうほとんど四肢へのエネルギーの供給は断ち切った。…結局、ものを言うのは性能の差だったな」

 胸部に突き刺さった短剣は、金属の擦れる音を響かせながら股下まで下ろされ、少年の機体がほぼ真っ二つになる。手足を痙攣させながら、先程よりも激しく火花を散らす機体を前に、テレスの機体は胴体の収納部からロケット砲を取り出し、その巨大な銃口をコクピットがある胸部にあてがう。

「さらば、同士よ」

 何のためらいもなく引き金を引く。銃口から巨大な弾丸が飛び出し、すぐ目の前の標的に当たり、爆破。少年の機体が粉微塵に吹き飛ばされる。

 爆発の直前、ブースターを急噴射して大きく後ろに距離をとったテレスは、少年の機体が鉄くずの雨となり、荒涼とした大地へと落ちていくのを確認する。そのまま踵を返し、元の姿へと変形した機体を走らせ去っていった。

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