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希少保護生物指定女子。  作者:
Ⅰ.はじまりは森の中
3/41

 はっきりとした青年の答えを聞いて、むしろ肩の力が抜けた。ため息をついて、まずは彼に向かって頭を下げた。


「ごめんなさい。混乱して、失礼な態度を取りました」


 完全に八つ当たりだった。彼に嘘やごまかしを口にした様子はないし、相手にしてみれば寝耳に水の話だったろう。

 それでも青年は柔和に微笑んだ。


「いや、気にしてないよ。ただちょっと確認したいんだけど、君は本当に龍じゃないの?」

「違います。だいたい、貴方みたいに変身とかできないし」

「それは幼いからでは? 成獣前に変化できないことはそうおかしなことじゃないよ」


 そういう認識になるのか……。というか。


「あの、龍に換算すると私っていくつくらいに見えるんですか?」


 彼の言い方だと完全に小さい子ども扱いに聞こえるのだが。

 青年は夏妃を上から下まで眺めて、おおざっぱにだけど、と前置き付きで答えた。


「だいたい、生まれて5、60年ってところかな」


 ………………はい?


「……えっと、龍の成人、いや成獣?って生まれて何年くらいですか?」

「まあ個体差はあるけど、100年前後だよ」


 ってことは、100歳が20歳だと換算して、えーと100:50=20:xとすると50歳は10歳?(キリのいい数字で助かった。計算は算数時代から死ぬほど苦手だ。)

 『さすがは龍、とんでもない長寿だな』と感心するべきか、『え、10歳?ほんとに子ども扱い?』と戸惑うべきか悩む。


 本当の年齢を説明すべきだろうか。でも15歳って龍だと幼児なのでは。それはさすがに、ものすごく嫌だ。迷ったが、あとで不都合が生じても困るので、やはり説明を試みることにした。

 私は15歳です、でも人間と龍の年の取り方は違うようなので、私は龍で言う75歳(これはちょっとタイムをもらって地面と小枝で筆算した。重症なのは自覚している)くらいだと思ってください、と訴える。さすがに驚いていたけれど、なるほどそうなんだ、と一応は頷いてくれた。


「それで君は、どうしてこんなところに?」


 最も答え辛い質問だった。うまい言い訳も思いつかず、正直に答えるしかないかと腹をくくる。


「それが、気が付いたらここにいたんです。居眠りする前は自分の家にいたはずなのに、どうしてこんな場所にいるんだかさっぱりわからなくて…」


 怪しいことこの上ないのは自分でも承知している。勝手に語尾が小さくなった。さすがに不審者扱いされても仕方ないだろう、と覚悟したのだが、青年の反応は予想と違っていた。


「じゃあ、迷子なんだね?行く当てがないなら、とりあえず俺の村においで。知らない場所に一人で、心細かっただろう」


 驚いた。初対面の、自分を「ニンゲン」なる未知の生き物と名乗る不審者発言ばかりの相手に、なんという能天気…いや、親切な申し出なのか。

 一瞬やっぱり実は悪党で何か企んでいるのでは…と疑ったほどだ。とはいえ、彼の表情に不自然なところはないし、純粋に親切心から出た言葉なのだろう。

 子ども扱いなのは気になるが、龍の基準からすれば庇護すべき子どもにしか見えないのだろうから重ねて否定はしない。それに言うまでもなく、ありがたい申し出だった。


「それは、助かりますけど…。でも、ご迷惑になりませんか?」


 飛びつきたいのはやまやまだが、常識的日本人として一度遠慮しないわけにはいくまい。ここでうん迷惑だけど、とか言われたら窮するところだが、青年はお人よしスマイルで否定してくれた。


「まさか。困っている君を放っておくほうが非常識だろ?」


 異世界でも人道は生きているんだなあ…とほっとした。いや、人はいない世界のようだけど。今度こそ、ありがたくお言葉に甘える。


「ありがとうございます。お世話になります」


 うん、とうなずいて、青年が夏妃に近づいてくる。なんだろう?と思っていたら、急に体が浮いた。いや、超常現象とは違う。青年に抱き上げられたのだ。しかもまさかのお姫様抱っこで。


「え、え?」


 事態に追いつけずに言葉が出てこない夏妃に、青年は呑気な笑みを向けた。


「裸足のまま森を歩いたりしたら危ないでしょ」

「い、いやでも私重いし」


 そのうえ死ぬほど恥ずかしい。


「君は羽根みたいに軽いよ。大丈夫、村はすぐ近くだし」


 一度は言われてみたかった台詞だが、喜べない。だってこの青年は龍なわけで、相当な重量さえ軽々と持てるんだろうし(想像だけど)。そもそも、羞恥プレイなのに変わりはない。

 親切なのは確かだが、どうにもこの青年はズレている。お人よしを絵にかいたような微笑みも、背後になんだかお花畑が見えそうだ。せっかく見目はいいのに天然なのか…?龍がみんなこんな感じだったらどうしよう。

 と思い悩んでいたら、「あ、そうだ」と青年が思い出したように夏妃を見た。ち、近い、顔が近い。


「そういえば聞いてなかったな。君、名前は?」


 失念していたのは夏妃も同じで、はっとした。恩人に名乗ってもいなかったなんて失礼この上ない。


「申し遅れました、椎名夏妃です。夏妃が名前、椎名が苗字」

「シーナ・ナツキ? へえ、素直ないい響きだね」


 それはどうも。ところで貴方は?と聞くと、


「俺はウィリディスアルゲントゥムサルトゥスルーナ」


 じゅ、呪文?


 固まった夏妃に苦笑して見せて、青年は付け加えた。


「が本名だけど、不便だしあまり使わない。みんなウィルって呼ぶよ」

「じゃあ私もウィルさんと…」


 フルで呼べと言われても無理だ。安堵が顔に出ていたのだろう、彼が微笑ましそうにくすりと笑う。


「さんもいらない、ウィルでいいよ。やっと成獣したところだし、敬語や敬称はむず痒いんだ」


 いやいや、100歳は立派に敬われる対象ですよ。と言ったところで仕方ないんだよなあ、やっぱり…。


「習慣なので、今はこれでお願いします。だんだん直していくので…」


 ということで納得してもらう。ついでに、本当に重さなど感じていないかのようにさくさくと森を進んでいく彼に念を押すことも忘れなかった。


 お願いですから、村に入る前に下ろしてくださいね。誰かに見られると恥ずかしいので!!


 ウィルは不思議そうにしながらも頷いてくれたが、たぶんお年頃のオンナノコの葛藤なんて理解していないだろう。

 気疲れしながら、前途多難、と口の中で呟いた。


一章は現状確認に終始しました。

計算無能力者は作者のほうなので、ミスがあればご指摘ください。ほんとに算数からだめなので。

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