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初投稿作品になります。
拙く、文章にお見苦しいところもあるかと思います。気になるところがあればご指摘いただければありがたいです。
それでは、楽しい異世界ライフ目指して、行けるところまで行ってみます。
寝起きの耳に届く小鳥のさえずり。梢を揺らす風の音。
こんな「THE・爽やかな朝」とタイトルが付きそうな目覚めは、15年の人生で初めてだ。
とはいえ、あんまり気分はよくない。柔らかいといっても土の上に寝そべっていたので全身がちがちだし、髪の毛にも土や落ち葉がくっついている。どちらかといえば不快だ。
やれやれと体を起こして背中やら髪やらを払う。頭上を仰ぐと、枝葉の間からまだ弱々しい陽の光が差し込んでいた。
さて、と夏妃はここでようやく現状を確認する気になった。
そのいち。着ているものは部屋着代わりのくたびれたTシャツとジャージ。これは記憶にある通りだ。風呂上りに着て、部屋に戻ったそのときのまま。
そのに。たった今まで自分の頭があった位置に、付箋を貼られた本があった。サイズはA5版。それなりの厚さで、枕にちょうどいい。タイトルは、『新版世界史B』。これも覚えている。明日が高校に入って最初の定期試験で、その初戦が世界史なのだ。いや、もう「今日」だろうか。とにかく、夏妃は徹夜でその追い込みをしていた。
そのさん。周りを見回してみる。濃い緑色をした広葉樹が生い茂り、下草も勢いよく繁茂している様子はまさに初夏の森の中、といった様子だ。しかし、こんな場所には覚えがない。夏妃は自分の家の、自分の部屋にいたはずなのに、一体何がどうなってこんな場所にいるのか。
着ている服と世界史の教科書のほかは自分の持ち物らしいものが見当たらず、靴さえ履いていない。まあ、部屋の中にいたのだから当たり前だけれど。とりあえず教科書を拾い上げて付いた汚れをぱたぱたと払った。それをなんとなく胸に抱えて、考え込む。
さて、これからどうすべきか。
この森が深いのか、それとも人里に近いのかもわからない。迷子になったときの基本といえば「その場から動かないこと」だけれど、夏妃を迎えにくる人物などいるのかどうかが問題だ。そもそも誰が何の目的で、こんな真似をしたのか。
頭に巣食う嫌な想像を追い出すべく、すーはーと大きく息を吸って吐いてみる。できるだけゆっくりと、吸うよりも吐く時間を長く。気持ちを切り替えるときに有効だと、何かの折に教師が言っていた方法だ。気休めみたいなものにでもすがりたい心境だった。
ばくばくいっていた心臓が落ち着きを取り戻してきたところで、とにかくこの最初の場所を見失わない程度に森を探ってみよう、と決めた。じっとしていても怖い想像が膨らむばかりで良いことがない。迷ったら行け、が夏妃の信条である。
しかし。
自分を奮い立たせて腰を浮かせたその時、地響きが聞こえてきた。地震?と動きを止めたが、確実に大きくなるそれは規則的で、何か意志を持ったもののように思えた。例えばそう、SF映画で怪獣が歩く音がこんな感じではなかったか。
――ある日、森の中。
ふと、童謡のメロディが頭に浮かんだ。緊張感のなさに自分で呆れたが、もしかしたら防衛本能なのかもしれない。逃げようという気にもなれず、中途半端な姿勢のまま音のする方向をじっと見つめる。さっきせっかく収めた動悸がまた耳についた。
やがて、視線の先の木立から小鳥が一斉に飛び立つ。甲高く鳴き交わす声と木が軋む悲鳴のような音とともに、森の奥から現れたのは。
どの樹木より高い背丈。眼光鋭い大きな眼。鹿に似た銀の角は美しく、体を覆う翡翠色の鱗とともに朝日をはじいて光る。
夏妃は、我が目を疑いながらぽかんと口を開けた。
途方もなく巨大なその姿は、残念ながら【森のくまさん】ではなく。
「森色のドラゴンさん……?」
目覚めた見知らぬ森の中。夏妃が初めて発したのは、そんな気の抜けた台詞だった。