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最終決戦:第二陣

 この戦いを正義か悪かで分別しろと言われたならば、この戦闘に参加する大半がその答えを諦めるだろう。

 機関はその、遥か未来の技術を手にして世界を手中に収めようとして。

 協会は、莫大な人材と付焼刃と呼ばれる特異能力者を利用して、機関の関連施設を手段選ばず壊滅させ続けているのだ。

 単純に考えれば、二つの組織の抗争である。

 その規模を、世界的なものにした、と考えれば、現状把握はそう難しくはない。

 何よりも面倒なのが、そこに『付焼刃』と呼ばれる成長性のない、後天的に能力を植えつけた者と――『特異点』と言う、限りない成長性を持つ能力を先天的に備えていた『能力者』が関わっていることであり。

 また協会の創設者が、機関が世界を占めたその後の世界。即ち現在から十数年未来から現代へと時間遡行してきた、という事だった。

 ――時衛士ときえいじの戦う契機は、機関の手による家族の惨殺事件。青年が機関を恨んでいることを知りながらも機関は、青年の『未来予知』の能力を利用しようとし、また青年は、その中で新たな仲間と出会い居場所を構成していく。

 ホロウ・ナガレはこれからの未来の変革を臨む未来人であり――この最終決戦までの行程が半ば”作戦通り”であることに、不安を否めなかった。

 青年がその男と対立する理由は、復讐対象の同胞を護るためであり、皮肉にも同一の目的を有した男はされど、これまでと同様に無情な鉄槌を下す。

 これが最期の戦いであるのは、誰の眼に見ても明らかだった。


 そして、それはまるで呆気無く、両者は互いの存在を知覚する。

 

 殲滅が完了した第一陣――防壁シールドを展開する最前線の部隊はかくして死滅し、第二陣、重火器を用いて侵攻する制圧部隊が動き出そうとする最中。

 再び、眩い輝きと共に転移反応が現れ。

「――首尾は順調か」

 血肉まき散らされる最前線を眺め、黒衣の男はそう漏らした。

 傍らで小太刀のような刀を一対構える男は静かに頷き、そうして、黒衣の男から落ちた塊を、衛士は遠望みぎで認識する。

「……イワイ」

 かつての仲間の名を、ぼそりと呟く。

 タイツのように身体に張り付く強化装備。あれは、現在適性者が使用しているパワードスーツなどではない、それ以前の試作段階にあった装備だ。身体に張り付き肌に癒着し、完全に同化してしまう装備は、故に着脱式のパワードスーツ――正式名称『耐時スーツ』あるいは『擬似特異点装備』とは比にならぬ肉体強化を及ぼすものだ。

 しかし、装備者の生存率は一割。

 その莫大な強化や、窮屈な装備自体に肉体を破壊されてしまう。

 故に生き残りは数少なく、現在ではイワイ・ヒデオのみだったが……彼の実力は折り紙付きだった。

『あれが、イワイか?』

 無線越しに誰かがぼやく。

『あいつが死ぬなんて、さすがは創設者ってとこか』

 やはりその雰囲気から、頭角をあらわす男が組織の頭であるのは誰が見てもわかるらしい。

 衛士は小さく頷き、ホロウへと、照準し――。

 男の顔が上がる。

 視線が、交差した。

 ――そして弾丸が、男の額に触れるか否かの位置で停止するのを”視た”。

 パワードスーツの中で身体を暖めていた熱が巨大なうねりと共に爆発する。

 額からどっと汗が流れ出し、左手の義指が錆びてしまう事を心配するほど、手はグローブの中で汗ばんでいた。

 ホロウ・ナガレには攻撃が通用しない。

 射撃に於いても、それは斬撃に於いても同様だ。

 ならば爆撃はどうだろうか、と思うが――奴が”無機物の動きを掌握する”能力の範囲が不明な以上、ヘタな動きは出来ないのが事実だ。

「落ち着け」

 言葉とともに、何かが肩を押さえつける。

 分厚いパワードスーツ越しの手。腕を経て顔を見れば、燃え上がるような紅い瞳。

 レックス・アームストロング。単独で傭兵業を営んでいた、優秀な人材だ。

 現在では擬似特異点スーツを身に付け、身体の至る所に存在するコンデンサのような突起を操作することで、電磁を自在に操る男だ。

「キミは、いつまで一人で戦っているつもりなんだい」

 担ぐのは鉄骨を二つ合わせたような鉄塊。肩から提げるバックパックには、手のひらにようやく収まるような鋼鉄で造られた弾頭が無数に詰め込んである。擬似的な電磁加速砲は彼の標準装備にして、最大の打撃力を持つ兵器だった。

 レックスの背後で、琥珀の瞳が煌めく。

 神父服姿の彼は、華奢な男だった。それを包むのは十数キロの弾倉と、大口径の二挺拳銃。そして腰には、ククリナイフが備えられていた。

「乗るか、反るか」

 穏やかな口調で、ただそう呟き。

「ああ、だけど」

 衛士は立ち上がり、対戦車ライフルに弾丸を装填してからそれを担いだ。

「オレは、運命を変えなくちゃいけないんだ」

 そして彼らは、従来の予定通り――そのビルから飛び降り、移動を開始する。



 彼らの駆け抜ける速度は、周囲の景色を怒涛となって背後へと送り込んでいる。

 やがて前にする、第三陣防衛戦まで退いたエミリアらが率いる部隊を、何の言葉もなく抜きさって――。

「アイリンさん、作戦通りに頼む」

 地面から突出するコンクリートの壁を飛び越える。

 その刹那だった。

 ――その道路を両断する塹壕がエンジンの唸り声を上げてさらに高く伸び始め、

「ボクらも、いい加減腹を決めなきゃ」

 レックスがぼやく中で、その壁はさらに弧を描くように。半円となって、彼らを取り囲んでいた。

 どこまでの長く伸び続けているような背景を映し出す壁は、既に息絶えたかのように漆黒に塗りつぶされ、そして天井からの擬似太陽は鈍い照明であたりを照らす。

 完全な密室を作り上げるそこで、壁を背にした軍勢と、僅か三名ばかりの男たちは、どちらともなく不敵な笑みを浮かべた。

 先程より圧倒的に手前に引かれた防衛ライン、かくして第二次としての役割を果たそうとしていた。


 勝つまで繰り返す時は、世界が彼に強いた選択ではない。

 己の判断で時を遡行する青年は、己が死なぬ限り、僅か五分ばかりをやり直し続ける力を保有した。

 生存者だけを残して戻る五分。

 もう未来は要らない。

 だから始めよう、後悔を拭う為の堂々巡りを――。

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