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最終決戦:EASYの盾

 眩いばかりの太陽光は、今ではまるでサングラス越しに眺めるかのように薄暗い。

 擬似太陽ホログラムだからそんな絶妙な加減ができるのだが、わざわざ薄暗くする必要もないのではないか。そう、己が装着する暗視ゴーグルのフレームを撫でながら思った。

 ビルの屋上。完全な無風の中、青年はただ様子を伺う。

 時衛士は、なぜか街の最果てに集合する連中を見定める。手動で転移装置を起動できる壁の手前である座標そこから、多くの男たちが出現しだしているのだ。

 転移装置本体の空間へ転移してこないところを見れば、彼ら――協会とていっぱいいっぱいなのが伺える。それが、唯一の救いでもあった。

 一瞬で、何も出来ぬまま終わらせられるわけには、いかないのだから。

「前衛に出てきた男、行きます」

 躍り出て、物陰に隠れようとする一人の男。背後を来にしつつ、ハンドサインで状況に応じた指示を下す男の頭部を照準しながら、衛士は無線で数人の狙撃手へと伝達する。

 上位互換アップグレードという、特殊部隊の狙撃兵である。その腕は確かであり、正確無比な狙撃にそれぞれ適した能力は、特異なものではなく、訓練と経験によって磨き上げられたソレだった。

『了解――援護する』

耐久値シールドは鉄板レベルか? なら衛士だけで十分だろう、俺は後衛を乱してやらあ』

『ま、今はまだ焦る時じゃあない、落ち着いていけよ』

 言葉が同時に、耳のイヤフォンへと殺到する。

 衛士は乾いた笑いを漏らしながら、腹部に走る緊張を大きく息を吸い込んで押さえつけた。

 ――焦る時じゃない。誰かがそうは言ったが、とても落ちるける状況などではなかった。

 ここで抑えきれなければ日本支部が陥落する。それは即ち、ここで再び得た全てを喪失することを意味していた。

 そんなことを、させるわけにはいかない。

 震える人差し指でトリガーに触れながら、衛士は短く息を吐く。

「行きます」

 初撃を大きなものにして、士気を上げなければならない。

 士気が上がらなければ、切り結んだ際に与えられる打撃力が低下する。

 最初の接触で芳しい結果が残せなければ押し切られ、防衛に失敗して抜けた戦闘員への対処に第二陣が裂かれることになる。そこから作戦は崩れていき、第二陣の欠けた隊員を補い、また補充するために抜けた人材を他から補い……そんな僅かな揺らぎが、結果的にこの機関へと巨大な暴風となって襲いかかってくるはずだ。

 そんな一撃を、齢十七の青年に託す、その理由は――。


 五秒後。照準した敵は頭をふっ飛ばされて死んだ。

 青年はそれを視ていた。

 それは不安定で不確かな”予測”や”予期”ではなく、”予知”。確定した未来を、青年だけが捉えられる。五分間だけ、未来は青年の手の中にあった。

 その力を人は『神の眼』と呼び、青年は神の視点を借りて未来の変革を望んだのだ。


 自身の背後頭上からの視点は、蒼い焔を灯す右目が視ていた。

 望遠鏡のように自在に遠望を望めるそれを駆使し――左目で障害物を透過させる。透視から昇華したその能力は、確かに全てのモノを消失させる。故に、照準する男と青年を隔てるものは何一つ無く、一直線に結ばれた。

 さらに左目は、五秒だけ未来を視る。

 引き金はその時、ほとんど無意識の内に弾かれて――。

 発砲。

 ブシュウ、と空気が抜けるような発砲音が耳に届き、衝撃が肩を殴り飛ばす。

 対戦車ライフルに吹き飛ばされそうになりながらも、衛士は男の頭が、肩口から汚く血を吹きながら吹っ飛んだのを確認する。

 能力を使用した形跡もない。

 痛みも知らずに死んだのだろう。

 ――続けざまに、数発の発砲音が無線越しに響く。どれもこれもが減音器を利用した、限りなく抑えられた発砲音だった。

 ほぼ同時に、弾丸が射撃音の数だけ協会の連中に着弾する。

 それぞれが対戦車ライフル。故に、彼らが張る軟弱な防壁は易々と破壊され――空気中がにわかに煌めく。そんな、シールドを張ったという形跡だけを見せて、彼らは散っていく。

 初撃が完遂してからおよそ二秒。

 その時点で、既に前衛に並んだ十人は部隊長ごと全滅していた。

 

 そしてその五秒後に、衛士は凄まじい閃光を垣間見た。


「全部隊に告げる。閃光弾だ、対処してくれ」

 残り四秒、その伝達は即座に司令部へと伝わり。

 残り三秒、即決する司令官――アイリンはPCにコマンドを叩きこみ、装備から暗視スコープを選択する。

 残り二秒、暗視スコープに干渉する暗号が、すぐさま可動を断絶し。

 残り一秒、青年のライフルが火を吹いた。

 果たして閃光弾は発射されず、そして行動しかけた男は上肢を吹き飛ばして死滅した。

『装備を見る限りじゃ、突撃隊はもう全滅したっぽいな』

「まさか、協会がそんな、軍みたいな配備をするんですか?」

 低い男の声に、衛士が訊く。

 今までは無差別的なまでに装備が統一されておらず、だが共通なのは誰もが歩兵装備であることだった。後方支援はなさそうで、だからこそ重器類は所持していなかったが――腕力や、物自体に干渉して携行に不良をもたらさぬ能力を有する連中に限っては、機関銃や、無数の対戦車砲を装備している場合が多かった。

 その男が言うのはつまり、肉体や物に干渉する能力を有する連中が多いかもしれないという事で。

『肉体強化、念動力、そんな付焼刃が大火力の主軸かもしれんな』

 男の言葉の直後。

 凛とした声が、ただ一言『行け』と、地上で待機する歩兵に指令した。



 肉体を強化させるパワードスーツを身につけた『適正者』達が、眼前に迫りつつ在る敵部隊を牽制する。

 それぞれビルや商店などを遮蔽物にして開始する銃撃戦は――だが大地が変動し、路上にせり上がった分厚いコンクリートの壁が、彼らに一時的な塹壕を作り出していた。

 対する協会側は、徐々に前線へと顔を出す。

 暗視ゴーグルが復帰した彼らの前に、数十もの影が、射線上に悠々と歩き出していた。

 彼らの眼前に、不可視の隔壁が出来上がっているらしい。それでも壁沿いに歩く姿は、やはり狙撃を警戒せずには居られぬが故だった。

「耐久値は鉄板だ。榴弾で行け」

 褐色の女が手近な男へと指示を出す。

 少し離れた位置の大男が、彼女を一瞥した。

『戦場を乱すぞ』

 イヤフォンに流れ込んでくる言葉に、エミリアは小さく頷いた。

 腰のブッシュナイフを抜けば、大男、船坂は鋼鉄の塊と見紛う大剣を構える。

 共に白兵戦を得意とする両者がそういった武器を好む理由は、弾切れもなく、大したことでは破損しないということにある。

「発射します!」

 アサルトライフルに付属するグレネードランチャーから、弧を描く榴弾が射出された。

 壁を飛び越え、まず右翼へと爆撃。

 けたたましい爆発音と共に、爆炎が瞬時に彼らを飲み込み――指示するまでもなく、半分の銃口がそちらへと集中的に弾丸を浴びせ始めた。

 それと同時に飛び出す二つの影は、左翼へ飛びかかる。

 爆発の衝撃に煽られた数十人は警戒と共に銃を構えるが――先頭の男の頭が不意にはじけ飛んだ。

 真正面から受け止めるはずだった弾丸が失せたことによって最加速を得たエミリアの斬撃は、頭部を失った男を壁にして、まず手前に並んだ一人の喉元を切り裂いた。

 その奥へと突っ込んだ巨躯は、まるで小枝でも振るうようにその鉄塊を薙ぎ払い――数人が、瞬時にして肉塊と化した。

 血飛沫が撒き散らされ、内臓が周囲に飛び散る。

 男たちの絶叫が降り注ぎ。

 即座に離散する二人が去ったその場所へ、残った火砲が唸り声を上げて榴弾を投擲した。

 爆発。

 熱と衝撃と、硝煙と鮮血とが入り混じる戦場、最前線。

『防壁部隊の殲滅を確認』

 司令部の声と共に。

 まず始めの接触は、大打撃を与えることで完了した。

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