銀河の夜
「お父さんは、どこへいったの?」
「遠くに行っただけよ。」
「なのにどうして、お父さんは・・」
「さあ、もう行く時間よ。」
「いくってどこに?」
「遠い所よ。」
「お父さんと同じところ?」
「いいえ、違う遠いところよ。」
「もう、お父さんと会えないの?」
「ええ、もう会えないわ。」
「でも、でも、」
「いい?ここの扉を開けたら一目散に走って駅へ向かうのよ。誰かいても、誰が話しかけてきても、聞いちゃだめ。まっすぐ駅を目指して走るの。」
「うん・・・。わかった。」
扉がコマ送りで開いていく。
繋いだ手を放さないようにあたしは駅へ向けて走った。
途中で誰かいたかもしれないし誰もいなかったかもしれない。
誰かが声をかけてきてたのかもしれないしかけてきていなかったのかもしれない
なにも分からなかった。
とにかく、あたしは、お母さんを引っ張って、まっしぐらに駅まで走って行った。
星が瞬いていた
あたしが小さかった頃、お父さんにどうしてお星様がチカチカしてるのか聞いたことがあった。
「お星様たちはね、ああやって他のともだちと交信しているんだよ。」
・・・・あのときは、銀河ぜんたいがやさしかった
だけどあたしの左手を握るお父さんはもういない。
きれいで冷たい夜空があたし達を見下ろしていた。
寒くって、悲しくって、泣きだしそうになって、ひっくってなったけれど、お母さんもひっくってなりそうだったから、声を上げて泣かなかった。ただ涙の通った跡が冷たかったから、左手でぬぐった。
「お父さんの所へ、行きたい?」
お母さんの瞳は澄んでいた。
「うん。あたし、お父さんの所へいきたい。お母さんは?」
「うん。私も、行きたい。」
優しい顔でお母さんは私を下ろしてくれた。
見慣れない目線に立って、まるで自分が列車そのものになったようだった。
ごつごつとした石を踏みながら線路を歩く。
不思議と寒くはなかった。
違和感と悲しみだけが溶けだしていた。
遠くの方に、白い点の光が見えだした。
それはどんなお星様よりも眩しかった。
「またむかしに戻りたいね。」
お母さんはそう言ってあたしをぎゅっと抱きしめた。
ぎゅっと、ぎゅっと、した。
点だった光はだんだんと大きくなっていた。
風があたし達に向かってわぁあっと吹きつけてきた。
あたしとお母さんは、背筋をピンと伸ばして、顎を引いて、それに向き合った。
警笛が寒い夜空に響く。
あたしも、お母さんも、涙の跡はもう乾いていた。
お母さんの左手は白くとても冷たかった。
強く手を握り返して、あたしはお母さんを見た。
風で黒くて綺麗な髪の毛が波打ち、瞳は光に照らされて輝いていた。
轟音と警笛がすぐそばで聞こえた。
あたし、お父さんとお母さんのこどもで、ほんとうによかった。




