乙女になりました
妹が好きな「流星の降る夜に」というゲームが今、俺の目の前にはある。
4つ下の18の妹がドン引く程にはまっているゲームは所謂乙女ゲームと呼ばれるもの。
定番中の定番とも言えるような、一つ屋根の下でイケメン×αと可愛い女の子が同居・・・・という設定のアレだ。
ハッキリいって、興味ない。何故男の俺が。。。。とも思う。
・・・・だがしかし。しかししかししかし。
妹(シスコンなんかじゃないんだからね!)がハマるものに、激しく興味がある。
俺の妹は、兄の俺から見てもめちゃくちゃ美人だ。間違いない
道を歩けば10人中10人が確実に振り向くような美人ちゃんだ。兄としての感情しか持ってない俺からすればただの可愛い妹だがね
だが、妹は現実の男に全くと言っていい程に興味が無い。興味があるのは2次元のイケメン達
お前の美貌があればイケメンは選び放題だろ!?と俺的には思うのだがどこかネジがズレているらしい妹は年齢=彼氏いない歴だ。
パッケージに描かれた「いや、現実にこんな男はいないから」と断言できるようなイケメンを凝視しながら俺はゲーム機の電源を入れた。
勿論、俺が好きなのはおにゃのこだ。彼女も一応いる。羨ましいか!?
だからコレは本当にただの興味本位。何故妹が彼氏も作らずこれに没頭できるのか・・・・という謎を解明したくなっただけなのだ。
普段だったらこんなことはしない。正直、どうでもいいからな。
だがしかし、今の俺にはアルコールという名の魔法のアイテムが作用している。
ほろ酔い状態でご機嫌な俺。妹は学校の怪しげな名前の部の合宿で今はいない。そして、リビングには置き去りにされたゲーム達。
上げ膳据え膳とはまさにこの事。
誰かの目があったらやらないけど、今は家に俺一人。
NOW LODING
表示された文字に調子はずれな鼻歌を歌っていた俺は、プレイヤー登録と表示された画面にフム。。。と顎に手を当てる。
名前~名前~・・・と悩んだ末に、「流星 ルナ」とつけてやった。胡散臭い占い師っぽくなったが気にしない。何しろ俺は今ご機嫌だから!!
名前を付けたら、主人公の容姿設定の画面が表示される。ほう。最近のゲームはいろんな所が自分で決められるのな~と特に深く考えずに俺はチャキチャキ決めていく。
黒髪のロングのストレート。身長は155センチで低め。白い肌に黒い目。
モロ俺のタイプだ。・・・余談だが今付き合っている彼女はこんなんじゃない。
残念な事にね・・・・。告白されたから付き合ってるだけで愛はない。ふっ・・・
再度表示されたNOW LODINGの文字に「はいはい、待ちますよ~」とか呑気に酒をあおっていた俺は、画面を凝視したまま
落ちた。
*********
目が覚めたら、見慣れない部屋だった。
可愛い感じのまさしく「女の子の部屋!」って感じ。
俺の妹の部屋にはゲームやらアニメやらのポスターが貼られているので、確実に妹の部屋ではない。
はて??俺は酒を飲んでいたハズなんだが????
ふかふかベッドから身を起こした俺は、グルリと部屋を見渡して首を傾げる。こんな乙女趣味な(ある意味妹の部屋は乙女趣味だが)部屋は我が家にはない。
昨夜の記憶を手繰り寄せ、妹のゲームをしようとして眠りに落ちたのだ・・・・という所まで判明した。
疲れているところに酒を飲んだせいで睡魔に負けてしまったらしい。ガッデム!
上げ膳据え膳を頂き損ねた・・・と若干残念に思いつつも疑問は無くならない。寝たのは良いとしてもここは何処だーという疑問。。
うーん。とベッドの上に胡坐をかいて座った俺はふと、サラリ・・・と落ちてきた髪にぎょっとした。
漆黒のロングなストレートの髪という言葉がピッタリなそれに、・・・・ふと、よぎる記憶。
妹の、ゲームの、主人公の、設定、、、、、、、確かこんなんにしたような・・・・・
・・・・・・・・・・・思考停止。
いやいやいやいやいや、ありえん、ありえんぞ俺
馬鹿だな、酒を飲みすぎたんだよ。こんな夢見るなんて俺もよっぽど病んでんな!!
二度寝だ。二度寝しかない。眠れ、眠るんだ俺!!
布団の中にモゾモゾと潜り込み直した俺は瞼を下ろして呪文のように頭の中で羊を数えはじめた。
1匹2匹・・・と順調に数え続け、146匹の羊を数えた時
「ルナちゃん、起きてる~??」
ドアがノックされ、イケメンボイスが部屋に響いた。
・・・・・はっはっは。俺、そーとー病んでるなぁ・・・。疲れすぎだろ。
昨日は労働基準法丸無視したような労働時間だったからな。うん、寝よう。眠れば疲れは取れるサ
声を右から左にスルーして、俺はさらに布団の中に潜り込む。
トントンと部屋のノックがもう一度なされるが、無視だ無視。
数が分からなくなった羊を数える事を諦め、ぬくぬくと暖かい布団の中に全身を投じた俺は
ガチャリ
と扉の開く音を聞いた気がした。
スリッパのパタパタという足音が近づいてきて、ぽんぽんと優しく布団の上から優しくリズムよく叩かれているような感じがするので
あぁん??俺は今から寝るんだよ、邪魔すんな
とばかりに文句を言おうとして、布団をめくって頭を出して
即、後悔した。