01 序章
本作品はフィクションです。
登場する人物・団体・国家・企業・名称・宗教などは全て架空の設定であり、現実との関係はございません。
リティール第一都フランベルジュ特区。そこは特別区と称されるように住んでいる人間も特別だ。
財界人や芸能人、有名アーティストや有名スポーツマン、また政治家や大企業の社長など、いわゆるVIPクラスの人間が集まって暮らしている。
それ故にフランベルジュ特別警察なんていう普通の警察機構とは独自の機構なども存在している。
特別区、とは後からつけられた名前だ。たまたま都心から近く、穏やかな緑の残る田園風景、海が比較的近いなんていうリッチな条件が揃っていて、交通の便も良いなんていうところにVIPクラスの人間がこぞって住み着いただけだった。後になって誰かが特別区と呼び始めて今では「フランベルジュ特区」の名が浸透している。
特別警察はある企業の社長が自らの私邸を守る為に結成したのだが、程なくしてその会社が倒産。残った警察機構を区長が区民の募金を基に買取、今の形に仕立て上げた。今では区民税の中にその維持費も含まれている。当然他の区より金額が高いのはいうまでも無い。
そのフランベルジュ特区に「ヴァルキュリアス女子学校」がある。幼稚園から大学まで一貫教育が受けられる名門中の名門校である。敷地は広大で迷子になったら出てくる事が困難なほどの広さがあった。 設備は常に最新のものが用意され、環境も常に新鮮に保たれている。維持費は相当なものだが、そこは莫大な援助金が経営を支えていた。
この援助金の額が自らの地位を示すかのようにやっきになって高額を収めるものもいる。
当然それを鼻にかけたりする生徒もあらわれたりもしていたけど。
そんな名門中の名門校の高等部に竜堂奈々は所属していた。
その日は穏やかな陽気に包まれていた。春のような陽気が穏やかで変わらない日常を実感させる。
実際には季節は夏から秋に差し掛かっていた。
落ち葉がひらひらと窓の外を舞っていく。
落ち葉が散っていく様を眺めていた奈々だったが、現実に帰ったのか再び机の上にあるノートに取り掛かり始めた。
それは今先程の授業で与えられた課題、いわゆる宿題であった。奈々はそれを15分という短い休み時間の間に消化しようとしていた。とはいっても簡単に消化できてしまうようなものでもなかったので、大抵はお昼休みに終わらせる事が多かった。
普通校ならよほどのガリ勉か変わった人扱いされる所だが、この学校ではそうでもないようだった。
何せお嬢様学校だけあって、学校が終わってもお稽古や財界人達とのパーティーの予定などで放課後に満足な時間がない生徒が数多くいた。その為に宿題などは学校にいる間に最低でも半分以上は消化しておかねばならなかった。
「…なんとか終わりそうね」
今日は意外と宿題のボリュームが少なかった為、この15分でカタが尽きそうであった。これが終われば今日のノルマはもうない。
次の授業は宿題を出さない主義の先生だったし、午後は体育系の授業なので宿題があろうはずもない。
キーンコーンカーンコーン と鐘が鳴る。
「ふぅ、間に合ったわね」
思わずため息をつく。そしてすぐ次の授業の用意をする。予習もしてきているので憂いは無い。
奈々は優等生であり、秀才だった。
高等部で考えてもベスト10には入る。といってもある時は3位、ある時は10位と成績にバラツキがあるのだが。それを除けば成績自体はTOPクラス、品行方性とくれば教師からのウケもよかった。
奈々は高校一年生であるが、後輩からの人気が高く、現在もたまに中等部からの訪問者がやってきたりする。そして何故か先輩からはウケが悪い。陰湿ないじめらしきものがあったりもしたがサラリとかわしてしまったので徐々になくなっていった。かといっても仲がよくなることは今のところないようだった。
クラスメイト達と放課後に一緒になって遊んだり、出かけたり、ということは殆どなかったが友好関係は広かった。
若干、友情の他に愛情を感じるものが多いので奈々にとっては微妙な悩みの種でもある。
とにかくこの「ヴァルキュリアス女子学校 高等部」では奈々は至って普通のお嬢様と変わらない生活を送っていた。
しかし、奈々の私生活は他のお嬢様達とはだいぶ異なるものだった。
竜堂奈々の暮らしている竜堂家は、代々受け継がれてきた由緒正しき家系であり、大震災前から生き残っている数少ない家系のひとつであった。現在も大震災前からの厳格な家風を続けている。
竜堂家は竜堂組と呼ばれる、俗っぽい言葉で言えば「ヤクザ」であった。
とはいっても暴力行為などは奈々の父であり、組長の竜堂翼厳重に禁止されていた。その対象は一般人に限り、ということである。同業者には遠慮はない。
しかし、この時代に「組」なんていうものをもっているのはもう数えるほどしかない。まともに機能している組となれば片手で数えるほどである。その中で竜堂組は最大手といっても過言ではない。財界や政界への影響力も強い。フランベルジュ特区にいるのは当たり前の実力・権力であった。
当然、奈々の同級生などはその事は知っている。口の悪いものは「ヤクザ娘」、「極道娘」等とも呼ぶ人間もいた。本人は気にもしていないが。
奈々が他のお嬢様方と違う点は家柄だけではなかった。
放課後の鍛錬というものがある。合気道の習い事、なんていう生易しいものではない。
合気道、空手、柔道など、武芸全般は一通り教え込まれる。そして気の勉強。滝に打たれるなど、前時代的な修行もある。更にはしなやかな身のこなしを身に付けるために舞を踊る事もある。
痴漢や強盗相手には過ぎるような戦闘方法の教育。それが幼い頃から毎日続けられている。一日も早い技能の取得が必要であったからだ。
竜堂組の戦力としてではない。他の理由があった。ある二つの理由から。
一つはのちのち語られる事になる。
そしてもう一つはこれから語られる物語…。
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