表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/16

episode.8 世界観、解明(2)



学校長室から解散し、城下は教室が並ぶ廊下を歩いていた。


自分のクラスへ向かう為である。 目的はただ一つ、<情報屋>から情報を得ること。

時間が限られている今、<情報屋>を頼る他に術はない。


しかし教室に到着したはいいものの、肝心の杜遠李はいなかった。


近くにいたクラスメートに聞いたところ、


「え?杜遠さんなら、一限目の授業でどこかの教室へ移動してたみたいだけど…」


もう一限目終わったから、教室へ戻ってくるんじゃないかな?とクラスメートは続ける。


「わかった、」


城下は短く答え、続けて礼を言い自分の席へ向かった。


基本的にT-MSはクラスは同じでも役割によって時間割が違う総合学科なもので、この様な事は珍しくない。

席に着いた城下は持ってきていたノートパソコンを机の上に置き、電源を入れた。

あらかじめ事務室のパソコンから先程のメールを転送しておいたので、それをデータに保存する。


それから李の到着を待つ時間も惜しいので、情報を集めることにした。


待つこと何分か過ぎ─────……。


「きゃーっ!二限目遅れるぅーっ!」


二限目の授業の為それぞれ移動したのか、何時の間にか城下独りしかいない教室に李が飛び込んできた。

それと同時に二限目の始まりを告げるチャイムが鳴り響く。


「って、城下くん!?何故ここにいるんデスかっ!?」


李は城下に驚いたのか、持っていた荷物を後ろへ吹っ飛ばすほどのオーバーリアクションをした。


「うん、ちょっと杜遠に<情報屋>として働いて欲しいことがあって」


「えぇ~っと、なにか事件でもあったんですか?」


李が戸惑った様子で笑いながら、城下に聞く。


「そうだよ。今回はちょっと時間を争うから、杜遠から情報を貰えるかなと思って」


「そ、そーなんですかっ! わかりましたっ協力しますよ!」


李が顔を赤くしながら、大きな声で返事をする。

城下と話す時はいつもこんな感じなので、城下自身は気にしていないが。




「ありがとう、助かるよ」


「いえいえっ!あ、場所変えますか?」


「ううん、いいよここで。誰もいなし。あと杜遠、次の授業は行けないけど平気?」


「えぇ、大丈夫ですよ。次の授業は得意分野ですからっ」


そんなやり取りをしつつ、二人は机を向かい合わせた。


城下は李に今回の状況をざっと説明し、そして過去の自分になにか関わる事はないかを聞いた。


「うーん、そうですねぇ…。城下くんは基本的にほとんどの活動において活躍してますから…」


首を小さく傾け、頭を悩ませる李。


「あえて言うなら、城下くんを知られてる訳だから直接城下くんが現地に出向いた事件が一番確率が高いのではないですか?」


「そうだね、僕は基本的に策略を指示するだけで現地に向かうことはあまりしないし」


「ですから、大きく挙げると三つありますね。

一つ目は、4年前の『情報偽造事件』これにより、T-MS生徒一名が死亡。二つ目はその翌年の『能力者救出作戦』T-MS生徒、一名転入。三つ目は半年前の『15時間立てこもり事件』怪我人、死者なし。────以上ですね」


李は真面目な面持ちですらすらと言葉を発する。持ち前の記憶力は完璧らしい。


「確率的には、この三つの事件が当てはまるかと。『能力者救出作戦』以外はここで起こった事件ですし、他の事件は事後処理はある程度の段階まで終えています」


「第一に『情報偽造事件』で死亡した生徒ですが、犯人だったらしく、拷問による死亡だそうです。

犯人に両親はいなく、まだ幼かった妹は施設に預けられていたらしいです。ですから彼女は事件を知らないと思われます」


続けて述べる李に城下が答える。


「つまり、彼女の復讐の意志はない可能性ほうが高いってこと?」


「そうですね。恐らく学校側が根回しをして彼女に真実を知らせなかったと…」


そう言ったところで、李は気まずそうに言葉を切った。あまり、気分の良い話では無いからだろう。


「す、すみません。続けま…」


「T-MSは平和を守るんじゃなくて、保つ為にあるんだ。だから例えどんなリスクがかかっても、世界中を騙す事になっても。僕は止まることは出来ない。僕はここにいる限りそう思っている」


つい私情を挟んでしまい、慌てて取り繕うとした李だったが、城下が何気なく声を発した事により制された。


彼は、語る。


まるで、唄うように。


「僕はこれから世界を騙す。策略して最終的に全てを覆すんだ。だけど、杜遠は違うんでしょ?真実を知るのなら例えどんな出来事が起こっても、世界中の誰もが忘れたとしても、杜遠だけは覚えていて」


そして彼の言葉に、


俯いていた彼女は、


ゆっくりと顔を上げ、


「はい、わかりました」


と、小さく微笑んだ。


まるで、全てを吹っ切ったかのように。


「――では、続けます」



* * * * *



「・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


一方その頃、反対側の第三校舎にて。

廊下を並んで歩く、亜莉朱と代安の姿があった。二限目の授業が始まっているらしく、廊下に人気はない。


亜莉朱は気まずそうに視線を辺りに泳がせていた。先程叩いてしまった手前、話しかける勇気はない。対してその隣を歩く代安は気楽にズボンのポケットに入れているウォークマンで音楽を聴いていた。


どうしてこの様な状況になったかと言うと――…


『あっ!ちょっと来て~、アリスちゃん』


先程の学校長室で解散後、八藤と連れ添って出て行こうとした亜莉朱を白葉が呼び止めた。


『はい?なんですか?』


亜莉朱は振り返り、再び白葉のもとへ。


『うん、あのね~アリスちゃん。代安に学校内の案内をして欲しいんだけど…』


『え、あの、私、しぐれさんとの見回りがあるんです…』


亜莉朱が遠慮がちにそう言う。


『そっかぁ!あ、でも八藤1人でも大丈夫っしょ?八藤に案内させてもいいんだけど、そうするとアリスちゃん独りになっちゃうから危ないしぃ~。ね、お願い~』


椅子に腰掛けたまま、拝むように両手を合わせる白葉。


『――はい、了解です』


亜莉朱は小さく頷いた。


しかし白葉がそんなことをしなくても、結局は彼女の言うとおりにすると決まっている。


何故なら…


彼女は、ここの“学校長”であり<支配者>なのだから。彼女の命令は何があっても、絶対である。


『ありがとっ!ついでに見回りもしておいて、ルートはこれでねっ!』


白葉は亜莉朱の返事に満足したように笑いつつ、亜莉朱に折り畳んだ薄桃色のメモを渡した。

メモには学校内の案内ルートと紹介するべき人物及びその居場所が書いてあった。


『はい、では代安くん行きましょう。失礼します』


『うん、じゃあよろしく~』



───そして、現在に至る。


「・・・・・・・」


「・・・・・・・」


学校長室から解散して約10分。

特に話すこともなく、そしてまだ1つ目の目的地にも着いていない為、沈黙が続いている。


「……あのっ」


「……ねぇ、亜莉朱ちゃん」


ついに言葉を発した亜莉朱だったが、代安も同時に声を出したためイマイチ決まらかった。


「……えっと、な、なんでしょうか??」


「ん、亜莉朱ちゃんから先に言っていいよ?」


「いえ、私は大した用事ではないので…代安くんがお先に」


そう言って先を譲る亜莉朱に代安はあっさりと承諾し、先手を取った。


「まぁ、俺も大した用じゃ無いんだけど…さっきふと思ってさ。亜莉朱ちゃんってフルネームなんて言うの?さっきの自己紹介の時に名前しか言わなかったじゃん?」


「あ、名字ですか?城下ですよ。城下(しろした)亜莉朱(ありす)


「城下って確か<策略者>と同じ名字だったよな?」


「はい、そうですよ。私、ジョーカーく…城下くんのお姉さんの娘なんです」


話題が見つかり一安心の亜莉朱はしっかりと代安に受け答える。


「え、でも亜莉朱ちゃんと城下って付き合ってんだろ?大丈夫なわけ??」


「大丈夫ですよ。城下くんのお姉さんとは実際に血のつながりはないので、養子みたいなものです。

身寄りがない私の保護者になってくれたんです」


「…ごめん、なんか悪いこと聞いた」


「えっ?そんな事ないですよ?」


亜莉朱は不思議そうに首を傾げる。


「結果的に両親と別れることになりましたが、私はこれで良かったと思います。今、とても幸せですから」


そう続けると亜莉朱は小さく微笑んだ。



───あの冷たい、


コンクリートの


光すらない、


部屋よりずっと





───彼等が救い、


そして与えてくれた


この世界はあまりにも


眩しくて、






「ですから、私は後悔なんてしていません。少しも悲しくないって言ったら嘘になるかもしれないけれど、それ以上に幸せなんです」


「そっか、」


亜莉朱の言葉に納得したように代安はそう言うと、笑った。


「で、亜莉朱ちゃん」


「はい?」


「次は亜莉朱ちゃんの番、なんか言いかけたでしょ?」


「ぁ、はい。えっと、あの…、 さっきは酷いこと言って、ごめんなさい」


突然の謝罪に代安は少々面食らったような顔をしたが、すぐ笑顔に戻り


「なんだ、そんなこと気にしてたんだ?もういいよ、普通に俺が悪かったし」


「…でも初対面の人なのに失礼なことばかりしてしまって…」


俯き加減でそう言う亜莉朱。


「確かに私はロイヤルメンバーとして役に立てないけど、他の城下くんやしぐれさんまでも同じように言われて…つい。すみませんでした」


「いや、本当に俺が悪かったんだってば。それに───」


代安が困ったようにそう言うと不意に声を潜めた。


「亜莉朱ちゃん可愛いからついいじめたくなっちゃったんだよね♪」


「……え?」


亜莉朱は代安の言葉に目をぱちくりさせ、呆然とする。


それから少し考える風にして、


「でも、しぐれさんの方が美人ですよ?それに城下くんだってたまに女の子に間違われるくらい綺麗ですし」


「おいおい。八藤はともかく俺に男の城下を勧めるなよ…」


代安は亜莉朱の発言に冷や汗をかくが、当の本人は天然全開らしく意味がよくわかっていないようだった。


埒が明かないと考えた代安は話題を変える。


「そうそう、もう一つ聞こうと思ってたんだけど、あの学校長サンって歳いくつなわけ?」


「白葉さんですか?T-MSの高等部卒業らしいんですけど、留年を何回も繰り返してるらしくって…本当の年齢は誰も知らないんですよ」


恐ろしいことに、あの外見は何年たっても変わっていないらしい。


「それに、白葉さんは変装が得意で。もしかしたら、あの格好は変装かもしれないっていう噂もあります。性別もはっきりしてないらしいし」


「うわー…。確かに俺が海外研修してた時もあの学校長サンと同級生って奴何人かいたけど、みんな年齢バラバラだったよなぁ」


遠い目をして代安がぼやく。


そんな彼を見て、亜莉朱は小さく吹き出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ