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episode.6 敵と味方


「───っ!?」


背後に人の気配を感じたのか、八藤は即座に振り返ると亜莉朱を庇うように立ちふさがった。


「しぐれさん…?」


「しっ…静かに」


不思議そうに首を傾げる亜莉朱に、人差し指を口元に当てる八藤。

それから八藤は素早く腰に巻きつけてあるホルダーからサバイバルナイフを取り出し、肘を曲げて構えた。


人気のない渡り廊下は常に薄暗く、少し先に見える人影は誰であるか検討がつかない。


コツ…コツ…と、その何者かの足音が当たりに響く。


八藤はナイフを構えたまま、微動だにしない。


コツ……と、その足音が止まった。


「<Alice>、伏せてっ!」


八藤はそう叫ぶと同時に床を蹴り、前へと跳ねた。

亜莉朱は八藤の言う通りに倒れるようにその場に伏せる。


八藤と亜莉朱のそのわずかな上下の間を、鋭いナイフが通り抜けかなりの距離を進んだ後音を立てて床に落ちた。


その間に八藤は相手との距離を縮めると、再び床を蹴り宙へ飛んだ後回し蹴りを仕掛ける。

すると相手は左腕でそれを受けとめ、八藤の胸倉を掴むと壁へ軽々投げ飛ばした。


八藤は空中でふわりと体勢を変え、壁を勢い良く蹴って再び相手へと向かっていき、着地とともにナイフを大きく振りかざす。

キン…ッと金属の澄んだ音が連続に響いた。


それから一歩間合いをとり、体勢を整える両者。


「───、八藤しぐれだな?」


一瞬ほどの沈黙の後、先に声を発したのは相手の方だった。



「T-MSの生徒会っじゃないって言ったらここまで俺とやり合えないだろう。フツーの奴ならさっき投げたナイフで死んでたぜ?」


そう言う相手――少年は、挑発的に笑った。




「…………ちょっと、手を抜いちゃったかな」





場慣れしているのか、挑発されているにも関わらず、八藤は冷静に受け答える。


「なんだと?」


少年の黒い瞳が鋭く光る。


「何って…そのままの意味だよ。君が何者か知らないけれど、私は君にかまっている暇はないんだ。先を急ぐからね───」




そう言うと八藤は身を屈め……



────消えた。




「……っ!?」


少年は一瞬驚き、体勢を崩したが、直ぐに持ち直し辺りへ視線を巡らせる。

しかし影と残像しか残らない八藤の動きに、為す術はない。


そして八藤の一方的な攻撃が開始され、少年は素早く防御体勢に入った。

八藤が先程よりも早く、そして力強く踏み込み、少年を追い詰める。


彼女によって操られるサバイバルナイフは段々とスピードを増し、反応できず少し遅れた少年のすぐ横を掠めた。


「…つっ…!」

少年の頬に横一筋の赤い線が伝わり、黒い髪が散る。


「ほら、足元」


先程の攻撃をかわした事により後ろへのけぞって体重を傾けていた少年に、八藤は横殴りな回し蹴りで足を蹴飛ばした。

少年はあっさりと後ろへ転倒するが、受け身をとったらしく、そのまま後ろ回りをすると素早く起き上がる。


だが―――――…



「チェックメイト」




対峙するはずの八藤と姿はなく、声がする方を向けば…


そこは、頭上。



「……な…っ!」



長い髪をたなびかせ、宙を舞った彼女はそのまま少年の方へと落下していく。

渡り廊下の高い天井を蹴ったことにより、スピードを上げたそれは、少年がよける事を不可能に近づけ…。







八藤の勝利は確定、のはずだった。












「――残念だったな」




少年は上から迫ってくる彼女を見上げ、不適に笑うとそうつぶやいた。




その手には――――




「手榴弾……っ!?」




少年は一瞬の躊躇もせず、一気にレバーを引いた。

二人の距離は1mもなく、八藤はもちろん、少年自身ですら逃げ場などない。


しかし、彼はあっさりと手にした手榴弾を軽く頭上に放り投げる。





そして響いた爆発音―――…。





* * * * *




「───しぐれさんっ!」


爆発音のあとに煙が立ちこめる中、伏せていた亜莉朱は立ち上がり叫んだ。


「しぐれさん!しぐれさんっ!」

本来、見知らぬ相手との緊急戦闘中はT-MSでの役割名で呼ぶのだが、そんなことには構っていられない。


煙で周りが見えず、返事も無いため八藤や少年の安否すらわからない。



その時、


「しぐれさ――っ…!」


そんな亜莉朱の背後から、何者かの手が伸び、彼女の口を塞いだ。

亜莉朱の顔に緊張が走る。


「――こんな中で叫んだりしたら、ダメだよ。敵に自分の場所を知らせることになるから」


続けて聞き覚えのある声が聞こえ、亜莉朱の顔が徐々に安堵へと変わっていく。


彼女の口を塞いでいた手が外され、振り向くと…。


「ジョーカーくんっ」


亜莉朱の目の前には城下が立っていた。


「うん、怪我はない?アリス」


「わ、私は大丈夫だけど…そうだ、しぐれさんが…っ!」


再び慌てる亜莉朱。


「八藤なら平気だよ、ちゃんと訓練もしてあるから。素人ではないんだし」


「でも…っ!」


亜莉朱は見ていたのだ、手榴弾が間近に迫った八藤の対応を。

八藤は怯みもせず、サバイバルナイフを構えたまま手榴弾へ向かっていったのだ。


<heart>や<diamond>などの実力者の役割をしている者は常に防弾加工された制服を着ている。

だが八藤は弾丸よりも速く動けるという身体能力を持ち合わせているため、その制服を着ることは滅多にない。


防弾加工された制服が爆発に耐えきれるという保証はないが、普通のセーラー服よりは外傷は少ないはずだ。


だか、八藤は着ていない。


「しぐれさん、あんな近くから爆発受けたんだから大丈夫なはずないよ…っ」


そんな彼女をなだめるように城下はアリス、と呼んだ。


「だから、八藤は大丈夫だよ。―――それにあの人も、助けに行ったみたいだから」


城下はそう言うと、前方へ視線を投げた。


「…………え、それって…?」




視界を覆っていた、白い煙が段々と晴れていき……。






学校長こと西本白葉が必然のように、そこにいた。





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