episode.3 集合プログラム
T-MS<トランス・ミッション・スクール>、それは世界各地から集められた秀才、実力者を更に教育し国の平和を保つために作られた学校。
中高一貫教育により、様々な資格や権利を得て実力次第では高額の報酬が手に入る。
そのため入学希望者が後を絶たないが、入学できるのはほんの一握りの人数で千人いれば百人入れるという計算だ。
なかでも1つ例外なのは<能力者>で、超能力を持つ者は本人の同意さえあれば入学できる。
しかし今現在、T-MSにいる能力者は約一名────……。
「…アリス?僕の話聞いてた?」
城下の言葉にはっと我に返る亜莉朱。
「あっ、ごめんジョーカーくん。ぼーっとしてたっ、何?」
翌日、寮の外で合流した亜莉朱と城下は、一緒にT-M.Sの校舎へと向かっていた。
校舎と言っても、ビルのような造りの建物で壮大な面積を誇っている。
グラウンドはなく、ただ広いコンクリートでつくられた敷地を通り過ぎると、建物の玄関へたどり着いた。
声帯とIDチェックを受けて中へと入る。
「だからさ、あの代安って奴。 知ってる?」
「代安って…<実力者>の代安ルキトくんのこと?」
玄関の受付を抜け中央にある螺旋階段を登りつつ、亜莉朱は前にいる城下に返答をする。
「そう、聞いたことない名前だったから。一応調べては見たんだけど、この“学校”の名簿には載ってなかったんだ。でも今回のメンバーに入ってるし」
「うーん、私もそんなによく知らないけど、ちょっと聞いたことあるんだ。
なんか、海外でT-M.Sのメンバー研修してた人なんだって。今日、帰ってくるって話だよ」
「ふーん」
城下は大して興味なさげに返事をするとその話を断ち切り、長く続く廊下の途中でふと足を止めた。
「ジョーカーくん?」
そんな彼に亜莉朱が問う。
「ロッカーから荷物とってくるよ。 アリスは先に教室に行ってて」
そういうと城下は教室へ続く道からそれ、曲がり角へ向う。
「う、うん。そうだねっジョーカーくん学校あんまり来てないから荷物全部ロッカーの中だもんね」
わかった、と亜莉朱は返事をして教室へ向かった。
* * * * * *
「おっはよー!アリスちゃんっ」
亜莉朱が教室に入ると、真っ先に声をかけてくる少女の姿が。
「あ、おはようった李ちゃん。今日は早いね」
亜莉朱がそう返事すると李と呼ばれた少女はにっこりと笑う。
「えへへー今日は早く登校なのです~。ある情報を聞きつけましたから~」
オレンジ色のベリーショートの髪に、パールの付いたヘアピンを二本。
派手なヘアースタイルに合わせているのか、制服であるセーラー服の赤いリボンは黄色のスカーフに替え、下はスカートの代わりに迷彩柄のズボンをはいていた。
「情報?」
亜莉朱がそう首を傾げると、
「そうだよっ!あの<策略者>が今日学校に登校するっていう!!」
目をキラキラ輝かせ、そう語る李。
「えーっと、ジョーカーくんのこと?」
李の目が更にキラーンと光る。
「そういえば~ジョーカーこと城下乃愛くんとアリスちゃんて、付き合ってるんでしたっけぇ~?」
「え、あ、うん。それがどうかしたの?」
いきなり振られた話題に亜莉朱は戸惑いつつ、答えた。
「私さー、城下くんに憧れてT-MSに入ったんですよ」
「うん、知ってるよ。<策略者>志望だったんだよね?」
「そう。で、結局無理だったの…私に<策略者>は向いてなかった。与えられた情報を処理して、記憶することはできた。…でも、そこから策略に繋げる事が出来なかった」
だんだんとその声は小さくなっていく。
「……李ちゃん…」
「…そして、私は情報屋になった。あらゆる情報を自らの力で得、記憶する。
それを必要な限り、伝える」
「うん…」
「だから、今の私は人々の情報。世界のあらゆる情報を知っている。今では知らないことの方が少ないくらい。……だけど」
「だけど?」
「生徒会、特に城下くんの情報はほとんど知らないのよっ」
ばちーんっ、と手前の机を叩く李。
「へっ?」
意外な展開に、亜莉朱は拍子抜けな声を出した。
「生徒会、つまりT-MSで最も実力及び才がある人たちの中で城下くんの情報が全然得られないのっ」
「う、うん?」
「唯一知っていることと言えば、いつからこの“学校”にいるとか…成績とかですし。
学歴も不明っ、家族構成だってお姉さんが1人いるってだけで両親のこととかも不明っ」
「なら、ジョーカーくんに直接聞いてみれば…」
「城下くん学校来ないじゃんっ」
「でも、今日来てるから…ね?」
そういって亜莉朱は曖昧に笑ってみせる。
「…無理よ」
李がポツリと呟く。
「え、何で?」
「城下くん可愛い過ぎるからっ!!」
「えっ?」
「だってだって!学校の制服完全無視のゴシックファッションっ!白い肌に細くて綺麗な足っ!ボーダーソックスにちょっと長めのサラサラの髪っ小柄で可愛いあの容姿っ!もうヤバ」
「……、」
「もう近づいたら死んじゃ――…」
「――何してるの?アリス」
ふと、後ろから声がかかる。
聞き覚えのある、少年にしては高いトーンの声。
「ジョーカーくんっ、」
亜莉朱が慌てて振り返る。
「行こっか?アリス」
「あっ、うん。私達呼び出しかかってたんだよね!急がなきゃ」
亜莉朱は窓際の席から立ち上がり、キチンと並べられた机の間をぬって城下のもとへ向かった。
「じゃあ行こう」
城下がそう言い、二人は廊下へ出る。
廊下には移動する生徒が多くいたが、二人の目的地が近づくにつれ人気もなくなってきた。
「あー…、僕。あの人嫌いなんだよねー…」
目的地につき、ドアを開ける前に城下が亜莉朱の横でそうぼやいた。
「そうなの?私は割と好きだなぁ~…、それに私の恩人の1人だしね」
「まぁ、確かにあの人じゃなかったらアリス助けに行けなかったからね。そこらへんはまた別なんだけど…でも…」
城下はそう言いながらドアをノックする。
そしてゆっくりとドアを開けた。
「――久しぶりです、学校長」




