episode.14 崩壊、再開
ガシャン、と鉄の柵が閉まる音が薄暗い空間に響く。
続けて鈴奈は鍵を閉め、立ち上がると振り返った。
「じゃあ明日、最終的にアリスちゃんに頼むって事でいいのかな?」
牢が並んだその場所には先程と同じメンバーがいる。
しかしただ1人李だけ、鉄柵の向こうに座り込んでいたが。
「うん。明日、アリスと付き添いが誰かまたここへ来るから。ね、アリス?」
城下はそう答え、隣で先程から俯いている亜莉朱の方を見た。
「あ、はい。また明日来ますね」
視線に気づいた亜莉朱は弾かれたように顔を上げ、そう言う。
「はいな。じゃ、明日」
鈴奈が答えて話に一区切りがつくと、八藤は腕にはめている時計を見る。
「もうお昼の時間だね。今日は朝から大変だったしお腹すいただろう?食堂へ行こうか」
八藤のその提案に、城下が口を挟んだ。
「……いや、僕は少しここに残るよ。八藤はアリスと一緒に先に行っててくれる?」
「別に良いが。城下どうした?」
「少し杜遠に聞きたいことがあるんだよ、いいかな?」
城下は八藤にそう答え、鈴奈に確認する。
「うちは別に構わへんで?“仕事”は夕方から始める予定やし」
「しかし城下、大丈夫なのか?今狙われている危険があるのは君だろう?」
「平気、銃持ってるし。自分の身くらい護れるよ」
心配を飄々とかわす城下に八藤はため息をつくと、
「わかった。しかし無茶だけはするなよ?何かあったら携帯で連絡してくれよ」
と言って了解した。
* * * *
「じゃ、また後で」
地上への階段を上り、扉の前で亜莉朱と八藤は城下と別れた。
簡潔な言葉を交わし、再び階段を下り始める城下。その時、
「ジョーカーくん…っ!」
控えめな、亜莉朱の声が彼を引き止める。
「うん?どうしたの、アリス」
城下は振り返り、亜莉朱に問いかけた。
八藤は亜莉朱より少し先に進んだところで、背を向けたまま立ち止まっている。
「気をつけてね…怪我とか、しないでね…っ」
泣きそうな顔で必死に言う亜莉朱に、城下は少々面食らった後
「大丈夫、僕は必ずアリスの所に戻ってくるよ」
優しい声でそう答え、微笑みかけた。
彼女が心配するのは当たり前だ。
今一番狙われていて危険な状態なのは自分の恋人、城下なのだから。
「そうだ。アリス、眼鏡外して」
「え?」
「眼鏡外してからもう一度、同じこと言ってあげる」
戸惑う亜莉朱に気にすることなく、城下は階段を上り詰め、彼女に近づくと眼鏡を外した。
「ジョーカーくん…?」
そして、亜莉朱の青い瞳と城下の漆黒の瞳がかち合う。
「──大丈夫、僕は必ずアリスの所に戻ってくるよ」
城下が言うその言葉には、何の曇りはなかった。
だから、信じられる。
「…わかった。絶対だからね?」
「うん、絶対だよ」
「絶対絶対、絶対だからね?」
「うん。愛してるよ、アリス」
「私も…って、もう、恥ずかしいよジョーカーくん」
やっともとの調子に戻った亜莉朱は安心したように笑い、眼鏡を直す。
「じゃあ、また後でね。ノアくん」
そして、少し先で待っていた八藤と共に去って行き、城下も己の道を歩き出した――。
「──よかったんどす?城下くん、君1人だけ残って」
地下に降り立ち、しばらく歩くと壁により掛かっている人影に声を掛けられた。
城下はその声に前を向いたまま答える。
「いいんだよ。狙われているのが僕なら1人で行動している方がいい。それに───…」
すべては役目を果たすため
すべては愛する人のため
様々な出来事が交差する世界で、真実を知ることは出来るのか
「いい加減、向こうも本格的に動いてきたみたいだからね」
完全崩壊まで、残り後わずか──…。
* * * * *
「お。アリスちゃん、八藤」
長方形の広々とした空間の第二校舎の最上階、食堂にあるカウンターで昼食の注文を終えた亜莉朱と八藤はその声に呼び止められた。
ふと見れば窓側に並べられた丸テーブルの1つに代安の姿があった。
朝に会った時と変わらぬ様子だったが、開いたワイシャツの胸元には包帯が見える。
「代安くん!怪我は大丈夫なの?」
「大したことないよ。お陰様でな。あとさ、少し話す事があるんだ。学校長サンからの伝言で」
それから亜莉朱達は代安と合い向かいに座り、一息つくと八藤が口を開いた。
「で、なんだい代安?学校長からの伝言って」
「あぁ、俺が医務室に居た時に学校長サンが様子見に来たんだよ。怪我の具合とかまぁ色々聞かれたんだけどな、問題はその後───…」
と代安は一呼吸置いてから、
「学校長は今、この“学校”内に居ない」
「な…っ!?こんな非常時に…」
「え、えと…どうしてですか?」
驚きを隠せない八藤に、戸惑う亜莉朱。
「校舎が1つ、爆破されただろ?その後始末だとか手続きとかで出張中。それに今回の事件は─、
死人も出たらしいからな」
「・・・・・・・」
その言葉に、俯く亜莉朱。
そんな彼女を気にかけつつ、八藤は話を続ける。
「・・・・そうか。で、その死亡した生徒達は事件と何か関係があるのか?」
「爆発現場の教室は、特進クラスの補習授業をしている場所だったらしい」
「特進は確か生徒会候補生が集まっているクラスだよな。……彼らは何の役割候補だ?」
「───<策略者>、だ」
「…っ!」
亜莉朱は思わずガタンと音を立て、立ち上がった。
そのまま駆け出そうとする彼女を八藤は追おうとする。
「・・・・まだ話の途中だぜ。アリスちゃん」
そんな2人を横目で見ながらテーブルに置かれたコーヒーカップを持ち上げ、代安は言う。
「でも…っジョーカーくんがっ」
「アリスちゃん、座りな」
続けて八藤も亜莉朱の腕を掴み、彼女を止めた。
「でも、しぐれさん…っ!!」
「──いいから、座って」
抵抗しようとする亜莉朱に、八藤は容赦のない視線を向ける。
「…………っ、」
固まる亜莉朱に苦笑いすると、八藤はなだめるように行った。
「気持ちはわかるけどね。大丈夫って城下が自分で言ったんだろう?なら、大丈夫だよ」
「…はい、すみませんでした」
亜莉朱はそう言うと再び椅子へ座った。
「で、話の続きなんだけど────…」
と代安が話を続けようとした、丁度その時、
「ごめん、電話だ。…城下?」
八藤が携帯を取り出した。
画面を見て表示された名前を確認すると、耳に当てる。
「…城下か?…あぁ、こっちは大丈夫だ。それに代安と合流した。後、代安の話によると学校長が今留守らしいんだ。…アリスちゃん? …わかった」
すると八藤は振り返り、亜莉朱へと携帯を差し出した。
「城下が、アリスちゃんに代われって」
「あ、はい…」
不思議そうに亜莉朱は携帯を受け取った。
「もしもし、ジョーカーくん?」




