episode.10 崩壊、開始(2)
────どうして、
こうなってしまったのだろう?
「私の…せいで…ッ!」
硝子が飛び散り、壁は焦げ、崩れている惨状の中で亜莉朱は悲痛な声を上げる。
なんとか壁に寄りかかるようにして座らせた代安は頭を伏せていて顔をあげることはない。
またこの場所でいつ爆発が起きるかわからないが、代安をここに残して逃げるわけには行かない。
亜莉朱はなんとか冷静になろうとし、連絡手段を考える。
「そうだ、携帯…っ」
亜莉朱は特別にT-MS特製の薄い携帯電話を与えられていた。
淡い桃色の携帯電話は簡単なメール機能と、電話、自分の居場所が知らせられるもので常に仕事中の連絡手段用にと持ち歩いている。
しかしスカートのポケットに手を入れるが、携帯は見つからない。
亜莉朱が慌てて周囲を見渡し、桃色の破片に目を留めた。
「うそ…っ」
破片のそばには溶けて原型を留めない桃色の物体と、焦げた小さなぬいぐるみのストラップが転がっていた。
連絡手段は、もうない。
亜莉朱が絶望しかけた、
――その時
「アリスちゃん!代安!」
ふと聞き慣れた声が遠くから聞こえてくる。
顔を上げると、廊下の反対側から誰かが駆けてきていた―――――。
* * * * *
時間は戻り、爆発の数分前。
「以上が、『情報偽造事件』『能力者救出作戦』『15時間立てこもり事件』についでのデータです」
城下と李がいる教室。
中では長々とハイスピードでデータを語った李が一息つき、城下は頭へ暗記したデータをノートパソコンでまとめていた。
「流石だね杜遠。助かるよ」
「いえいえっ!城下くんこそ、私が話した記録はすぐ暗記してますし!すごいですよっ」
照れくさそうに李が言う。
「じゃあこれをまとめると…」
と、パソコンの画面を見ているため李の表情に気づかない城下が話し出す。
「やはり『情報偽造事件』と『能力者救出作戦』は今回の件での関係は確率的に低くそうだね」
そんな彼に残念そうな李だったがその言葉には頷いた。
「そうですね、今回は“復讐”がキーワードですし」
「よくわったね」
城下は顔を上げないまま、答える。
「いえ、それほどでは…『15時時間立てこもり事件』は犯人からしてみれば、失敗のようなものですし計画を立てた城下くんへの復讐の意志が高いかと…」
すらすらと得意気に続ける李だったが…
「うん、もういい。わかったよ」
ふと、城下が遮った。
「……?なにが、わかったんですか?」
李が問いかけるが城下は答えない。
「『─もうすぐ崩壊が始まる。 始まりのベルを聞き逃すな。
我は必ず、この世界を破壊してみせる。
覚えておくがよい、<策略者>。
お前の世界はすでに崩壊を始めているということを』」
「…城下くん?」
「薄々思ってたんだけど、これでやっとはっきりした」
「え…っと、何がですか?」
そんな李に城下はパソコンから顔を上げると、彼女に視線を向け、口を開いた。
「――――このメールを送ったのは、君だってことがだよ」
その直後、遠くから凄まじい爆発音が鳴り響く────。




