5話 御陵家の掟 第二条 『憂を一秒たりとも寒いまま放置しないこと』
お鍋の準備を済ませたリビングには、
ダシの優しい香りが漂っていた。
「さてと!憂ちゃん!」
葉月は両手を腰に当てて、どや顔で宣言する。
「お風呂タイム、やってまいりました!!」
「言い方~」
「一日の疲れを落とすのは正義! お鍋の前にさっぱりが礼儀!!」
「誰の宗教?」
「あたしの!!」
葉月は制服のボタンに手をかけ――
その前に憂の手をぎゅっと取った。
「というわけで……一緒に入ろっ!」
「なんでさらっと!?」
「いやぁ~寒い季節は、ひとりよりふたりの方が省エネでね?」
「何の省エネ!?」
「心のエネルギーですよっ!」 胸をドンと叩いてから、得意げに言い放つ。
「御陵家の掟・第二条!『憂を一秒たりとも寒いまま放置しないこと』!!」
「いつの間に第二条!?」
「今制定した!! 補足条文に温め手段の規制なしって書いときます!」
「やめて!?勝手に書くなぁ!」
「よって!お姉ちゃんと入浴!!」
憂は全力で後ずさるが、葉月はにこにこ顔のまま手を離さない。
「ほらほら、タオル準備済み!シャンプー完璧! さぁ省エネ姉妹の実証実験へ!!」
「その名前やだよ!!」
「洗い分け表も作成済み!『頭→肩→背中→気持ち』の順番で洗います!」
「最後の何!?」
憂はどうにか態勢を立て直し、やさしく諭すように言った。
「葉月姉。ありがと。でも今日は別々に入ろ?」
「ぐぼぁっ……!」
葉月は膝をつき、肩を震わせながら天を仰ぐ。
「いっしょに入浴できないなんて……世界が……暗い……凍てつく……」
「大げさにも程がある!!」
「じゃあせめて!」葉月は勢いよく指を突きつける。
「バスルーム前で恋バナ!! 千秋ちゃんのこと語ろっ!!」
「恋バナ!?!? だっ、大丈夫だから!!何もないから!!」
「その反応が恋です!!!」
「違いますーーーっ!!」
浴室のドアが開き、背中を軽く押される。
「いってらっしゃい、憂ちゃん♪ お姉ちゃんはここで湯気見守り隊するから♪」
「なんで溶ける前提!?!?」
「千秋ちゃんに会いたさ爆発して 湯気になって飛んでっちゃったら困るでしょ!!」
「飛ばないよ!!」
ドア越しに声がかかる。
「ねぇ憂ちゃん!千秋ちゃんのこと、好き?」
「だからそういうのはっ!!」
「顔に全部書いてあるもん!!」
「今見えてないでしょ!?」
「でも分かるの!! だってお姉ちゃんだから!!!」
湯が張られる音。
湯気に紛れる、小さな笑み。
「……ありがと、葉月お姉ちゃん」
「聞こえたぁぁぁ!! 憂ちゃんがありがとうって言ったぁぁぁ!!
御陵家の掟・第二条、早速功績アリィィ!!」
「騒がしいなぁもう!!」
ふたりの声が響く家は、外の冬よりずっとあたたかかった。




