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沈黙のういザード  作者: サファイロス
4章 昇華のブリザード

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5話 御陵家の掟 第二条 『憂を一秒たりとも寒いまま放置しないこと』

 お鍋の準備を済ませたリビングには、

 ダシの優しい香りが漂っていた。


「さてと!憂ちゃん!」

 

 葉月は両手を腰に当てて、どや顔で宣言する。


「お風呂タイム、やってまいりました!!」


「言い方~」


「一日の疲れを落とすのは正義! お鍋の前にさっぱりが礼儀!!」


「誰の宗教?」


「あたしの!!」


 葉月は制服のボタンに手をかけ――

 その前に憂の手をぎゅっと取った。


「というわけで……一緒に入ろっ!」


「なんでさらっと!?」


「いやぁ~寒い季節は、ひとりよりふたりの方が省エネでね?」


「何の省エネ!?」


「心のエネルギーですよっ!」 胸をドンと叩いてから、得意げに言い放つ。


「御陵家の掟・第二条!『憂を一秒たりとも寒いまま放置しないこと』!!」


「いつの間に第二条!?」


「今制定した!! 補足条文に温め手段の規制なしって書いときます!」


「やめて!?勝手に書くなぁ!」


「よって!お姉ちゃんと入浴!!」


 憂は全力で後ずさるが、葉月はにこにこ顔のまま手を離さない。


「ほらほら、タオル準備済み!シャンプー完璧! さぁ省エネ姉妹の実証実験へ!!」


「その名前やだよ!!」


「洗い分け表も作成済み!『頭→肩→背中→気持ち』の順番で洗います!」


「最後の何!?」


 憂はどうにか態勢を立て直し、やさしく諭すように言った。


「葉月姉。ありがと。でも今日は別々に入ろ?」


「ぐぼぁっ……!」


 葉月は膝をつき、肩を震わせながら天を仰ぐ。


「いっしょに入浴できないなんて……世界が……暗い……凍てつく……」


「大げさにも程がある!!」


「じゃあせめて!」葉月は勢いよく指を突きつける。


「バスルーム前で恋バナ!! 千秋ちゃんのこと語ろっ!!」


「恋バナ!?!? だっ、大丈夫だから!!何もないから!!」


「その反応が恋です!!!」


「違いますーーーっ!!」


 浴室のドアが開き、背中を軽く押される。


「いってらっしゃい、憂ちゃん♪ お姉ちゃんはここで湯気見守り隊するから♪」


「なんで溶ける前提!?!?」


「千秋ちゃんに会いたさ爆発して 湯気になって飛んでっちゃったら困るでしょ!!」


「飛ばないよ!!」


 ドア越しに声がかかる。


「ねぇ憂ちゃん!千秋ちゃんのこと、好き?」


「だからそういうのはっ!!」


「顔に全部書いてあるもん!!」


「今見えてないでしょ!?」


「でも分かるの!! だってお姉ちゃんだから!!!」


 湯が張られる音。

 湯気に紛れる、小さな笑み。


「……ありがと、葉月お姉ちゃん」


「聞こえたぁぁぁ!! 憂ちゃんがありがとうって言ったぁぁぁ!!

 御陵家の掟・第二条、早速功績アリィィ!!」


「騒がしいなぁもう!!」


 ふたりの声が響く家は、外の冬よりずっとあたたかかった。

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