第30話 文化祭がくれたもの
朝の教室。
ざわざわとした声が飛び交い、
窓から差し込む光が、少し冷たい秋の色をしていた。
「おっはよ〜……ふわぁぁ……」
憂は机に鞄をどさっと置き、
欠伸を隠す暇もなく椅子に沈む。
「……眠そうですわね、憂さん」
「だって昨日さぁ……
なんか胸がキュンってして寝れなくて〜……
なんでだろ〜?」
千秋は思わず視線を逸らす。
「……お姉様」
「え?」
「…………はっ」
言ってしまった瞬間、
千秋の顔がカァァッと一瞬で真っ赤になる。
「え、今……なんて言ったの?」
憂はニヤニヤと顔を近づける。
「い、いえ!何も申し上げておりませんわっ!」
「ふ〜ん?
千秋てば、誰かと間違えてない?」
「ぐっ……」
千秋は机に頬を伏せたくなる。
でも憂は、その全部に気づいている。
なんだか少し──
大人っぽい目で。
「文化祭さ〜、楽しかったよね!」
憂がぱっと話題を明るく変える。
「はい、とても。
……雪乃さんの、おかげでもありますわ」
その呼び方に、憂はちょっとだけ寂しそうに笑う。
「うん。雪姉、すごく楽しんでたみたいだし!
わたしも楽しかった〜っ!」
「ええ。すべてが……宝物のような時間でしたわ」
しみじみ言う千秋を、
憂はからかうようにくすっと笑う。
「千秋、思い出し泣きしないようにね?
お嬢さまって泣き虫だし〜」
「なっ……!泣いてませんわっ!」
「昨日泣いてたじゃん〜♪」
「だ、だまらっしゃい!!」
二人のやりとりに、
周りの友達がクスクス笑い始める。
「あ、そうでしたわ!」
千秋は突然スマホを取り出した。
「憂さん。あなたが着ていたメイド服の……この写真」
画面には、
ばっちりポーズを決めたメイド憂が。
「わーっ!?
ちょ、それどこからっ!?」
「もちろん。
わたくしが撮ったのですわ」
「い、やぁぁあ!!
恥ずかしいってば!!」
「ふふっ。とても可愛らしかったですわよ?
お姉様も──きっと誇らしい気持ちでしょうね」
そう言われると、
憂は少しだけ、胸がじんとした。
「……えへへ。
そっかぁ……♪」
ところが──
「憂ー!これ見てー!」
別のクラスメイトが駆け寄ってくる。
「なに?」
「昨日のやつ!
憂のパンツ見えそう瞬間ショット!!」
「ちょっっ!!??」
スマホの画面には──
階段でこけかけた憂が
お皿を抱えながらバランス崩す瞬間の写真。
ぜったい見えそう。
あと少しでアウト。
「ちょぉぉおお!!消してぇぇえ!!?」
「あ〜これ永久保存かなぁ〜?」
「やだぁぁぁぁ!!!」
憂が涙目で追いかける。
千秋はその後ろ姿を見守りながら、
そっと微笑んだ。
そして、憂は振り返って
最高の笑顔で宣言する。
「文化祭、超たのしかったーーーっ!!!」
──多分これが、青春という味。
終わりじゃない。
ここからまた続いていく。




