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沈黙のういザード  作者: サファイロス
3章 狂奏のハザード

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第29話 芋のツルと姉妹の味

 朝の光が、柔らかく部屋を満たしていた。


 憂はまぶたを開け、数秒だけ天井を見つめる。

 昨日の記憶は曖昧で、なのに──胸の奥が温かい。



 触れたような気がする。

 抱きしめられたような気がする。

 けれど、思い出そうとすると

 その温度は白い息みたいに消えてしまう。


 憂はシャワーを浴びた。

 熱い湯が肩を流れていくたび、

 昨夜の“誰かの温度”が

 ゆっくりとほどけていく気がして

 胸の奥が少しだけ苦しくなった。


 制服に袖を通し

 ダイニングへ足を運ぶと──


「はいはーいっ!朝ごはん完成してまーす!!」


 葉月が両手を広げ、

 いつも以上にテンション高く迎えた。


 テーブルには普段より明らかに多いおかず。

 特に──


「芋のツルのお浸し……?今日は量が……」


「特盛!!」


 葉月は胸を張る。


「雪姉ちゃんが昨日言ってたんだ。

 “すっごく美味しかったよ”って。

 だから今日は増量サービス!」


 憂は箸を握ったまま固まる。


 喉がきゅっと締まる。


「ねぇ憂ちゃん」


 葉月は嬉しそうに続ける。


「雪姉ちゃん、ちゃんとお礼言ってたよ。

 “昨日、楽しかった”って言ってたから!」

 

 憂の胸に、じんわりと熱が広がった。


 「……何年、妹やってると思ってるの」


 つい口に出した瞬間、

 葉月の目がまん丸になった。


「えっ!? ちょっ、まって!」


 そして──


「ぎゃはははは!!

 それ!昨日あたしが言ったの!!

 同じ言い方!!まんますぎ!!」


「え、えぇ!?やめてよ恥ずかし……!」


 憂は真っ赤になって抗議するが

 葉月の爆笑は止まらない。


「ふふっ……

 やっぱ姉妹だね、あたしたち」


「……そうなのかな」


「そうだよ」

 葉月はまっすぐに言った。


「憂も、雪姉ちゃんも。

 言い方も、照れ方も、

 不器用なトコも……似てるんだよ」


 憂は、芋のツルのお浸しを口に運ぶ。

 優しい味。

 昨日と同じ味なのに──

 今日は泣きたくなるほど温かい。


「……葉月姉」


「ん?」


「今日も……良い日にしよっか」


 そう言うと、葉月は

 ぱっと顔を明るくして頷いた。


「うんっ!!

 今日も──三姉妹で生きる日だよ!」


(雪姉……)


 憂は心の中で呟く。


(今日も一緒に……生きてね)


 朝の光が二人を包み、

 その背中をそっと押すように

 一日が始まっていった──。

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