第29話 芋のツルと姉妹の味
朝の光が、柔らかく部屋を満たしていた。
憂はまぶたを開け、数秒だけ天井を見つめる。
昨日の記憶は曖昧で、なのに──胸の奥が温かい。
触れたような気がする。
抱きしめられたような気がする。
けれど、思い出そうとすると
その温度は白い息みたいに消えてしまう。
憂はシャワーを浴びた。
熱い湯が肩を流れていくたび、
昨夜の“誰かの温度”が
ゆっくりとほどけていく気がして
胸の奥が少しだけ苦しくなった。
制服に袖を通し
ダイニングへ足を運ぶと──
「はいはーいっ!朝ごはん完成してまーす!!」
葉月が両手を広げ、
いつも以上にテンション高く迎えた。
テーブルには普段より明らかに多いおかず。
特に──
「芋のツルのお浸し……?今日は量が……」
「特盛!!」
葉月は胸を張る。
「雪姉ちゃんが昨日言ってたんだ。
“すっごく美味しかったよ”って。
だから今日は増量サービス!」
憂は箸を握ったまま固まる。
喉がきゅっと締まる。
「ねぇ憂ちゃん」
葉月は嬉しそうに続ける。
「雪姉ちゃん、ちゃんとお礼言ってたよ。
“昨日、楽しかった”って言ってたから!」
憂の胸に、じんわりと熱が広がった。
「……何年、妹やってると思ってるの」
つい口に出した瞬間、
葉月の目がまん丸になった。
「えっ!? ちょっ、まって!」
そして──
「ぎゃはははは!!
それ!昨日あたしが言ったの!!
同じ言い方!!まんますぎ!!」
「え、えぇ!?やめてよ恥ずかし……!」
憂は真っ赤になって抗議するが
葉月の爆笑は止まらない。
「ふふっ……
やっぱ姉妹だね、あたしたち」
「……そうなのかな」
「そうだよ」
葉月はまっすぐに言った。
「憂も、雪姉ちゃんも。
言い方も、照れ方も、
不器用なトコも……似てるんだよ」
憂は、芋のツルのお浸しを口に運ぶ。
優しい味。
昨日と同じ味なのに──
今日は泣きたくなるほど温かい。
「……葉月姉」
「ん?」
「今日も……良い日にしよっか」
そう言うと、葉月は
ぱっと顔を明るくして頷いた。
「うんっ!!
今日も──三姉妹で生きる日だよ!」
(雪姉……)
憂は心の中で呟く。
(今日も一緒に……生きてね)
朝の光が二人を包み、
その背中をそっと押すように
一日が始まっていった──。




