第28話 次女と長女
玄関の扉を開けると、
あたたかな照明と夕餉の香りが迎えてくれた。
「――お帰り、雪姉ちゃん!」
ぱたぱたと廊下を駆けてくる足音。
くりっとした目で、葉月が嬉しそうに抱きつく。
「葉月。ただいま」
「文化祭どうだった!?
千秋ちゃんといっぱい楽しんだ!?」
「すごく楽しかったよ。
初めての学園生活が……こんなに素敵だなんて」
雪乃は微笑みながら、
葉月の頭をそっと撫でた。
「憂と一緒に、ね。
……そして千秋にもありがとう、って伝えたい」
葉月は一瞬、驚いたように目を瞬かせる。
「……雪姉ちゃんが、そんな顔するなんて、さ」
いつか置いていかれた幼い日。
でも、今はもう違う。
「何年、妹やってると思ってるの。
雪姉ちゃんが嬉しいと、あたしも嬉しいんだから」
胸の奥が少し熱くなる。
「夕ご飯できてるけど……
食べる? お腹すいてるでしょ?」
「ううん。今はいい。
そろそろ……身体の方の限界が来てるから」
葉月は一瞬だけ眉を下げる。
苦しそうな、けれど全部わかってる表情。
「……戻るんだね」
「うん。憂に……返さなきゃ」
二人で並んで階段を上がる。
日常の音が、少し遠く聞こえた。
憂の部屋の前まで来たとき、
雪乃はふと振り返る。
「葉月。朝ごはん……本当に美味しかったよ」
「えっ? 芋のツルのお浸し?」
「そう。ちゃんと愛情、味に出てた」
葉月は照れたように笑う。
「そりゃ、あたしメイドやってるし!
料理スキルは日々アップしてますからっ!」
明るく返した声の奥に、隠しきれない寂しさがあった。
「おやすみ、葉月」
「…………うん」
雪乃はドアノブを握る。
葉月が小さく呼び止めた。
「ねぇ、雪姉ちゃん」
「なに?」
葉月は笑った。
いつもの、元気いっぱいの笑顔で。
「おやすみなさい、お姉ちゃん」
でも――
その笑顔は、泣き出しそうな悲しみを必死に隠していた。
雪乃は静かに扉を閉める。
わずかに開いた隙間から、廊下の灯りが細く差し込む。
閉じる寸前、葉月の顔だけが見えた。
明るい笑顔のまま、目だけが酷く寂しそうだった。
夜は静かに深まり、一つの想いが胸の奥で震えていた。




