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沈黙のういザード  作者: サファイロス


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19話 hazard

体育館は――酸素が足りなかった。


観客の吐息は熱を帯び、

ステージに向けられた視線は、まるで野生の獣が餌を狙うように熱を帯びている。


準備中――

楽器のチューニング、スティックの回転、譜面台の微調整。

心臓の鼓動が大きくなる。

ステージ上の空気は、まるで嵐の前の静けさ。

汗が額に滲む。手がわずかに震える。


私は結衣と秋香に目をやる。

彼女たちも緊張を隠せない。

だが、目と目が合った瞬間――

無言のアイコンタクト。


「行くわよ」

私の視線に、二人は頷きで応える。

千秋もまた、ピアノの前で手を握りしめ、呼吸を整える。


ライトが落ち、黒い闇が世界を飲み込む。


直後――

灼けつく夏の熱のような赤いスポットが、私を照らした。


『白凰女学院文化祭ライブ!

 特別ユニット《Hazard-Tempest(仮)》!!!』


観客が咆哮し、床が振動する。


「行きましょう、雪乃さん……!」


「ええ。全部――燃やすだけよ」


結衣のスティックが宙に跳ね――


「ワンッ! ツーッ! スリー――フォォォ!!」


ドラムが爆発した。


秋香のベースが地鳴りのように唸り、

千秋のピアノが雷鳴のごとく叩きつけられる。


そして――私のギターが牙をむいた。


――ギュオオオォォン!!


刃のように鋭い音が観客席を切り裂き、

悲鳴と歓声が混ざり合った声が体育館に渦巻く。


観客の一人、胸を押さえて倒れ込む。

別の生徒は手を耳に当てながら立ちすくむ。

それでも、歓喜の声を上げ続ける者たち――

曲に翻弄され、恐怖と興奮の間で揺れ動く。


私はマイクを握り、喉の奥から絞り出す。


「――Burn it up!!」


夏を焦がす破壊の声。


観客の耳を突き刺し、体育館の壁を震わせ、光が爆ぜる。


ギターを掻き鳴らしながら、私は舞う。

ストロークは暴風、ピッキングは閃光、指先は刃物。


猛獣が檻を破る声で――


「――奪われた夏を返せ!!!」


私の怒りが音となり、会場全体を支配する。


汗が頬を伝い、息が荒くなる。

声は悲鳴にも似て、怒りにも似て、

失われた夏の熱を全て吐き出すように、伸び、砕け、暴れ狂う。


青紫の光が照明を覆い、観客の影が波打つように揺れる。


誰かが震え声で呟いた。


「……怖い……でも……目が離せない……!」


正解だ。


私の歌は――

ナイフの切先よりも鋭く、

閉じ込められた青春の苦しみや

抑え込まれた怒り、

消えゆく命への抵抗を、すべて音に宿している。


千秋は――

ピアノを叩きながら、涙をこぼした。


音が揺れ、軋む。

鍵盤がまるで私の心を追いかけるかのように鳴る。


秋香は冷や汗を流し、必死に追従する。

ベースが低く、熱く、鼓動のように唸る。


結衣は歯を食いしばり、ステージを守る騎士のようにドラムを叩く。

スティックが光を切り裂き、リズムが炸裂する。


観客は熱狂し、歓声と絶叫、叫びと涙が渦巻く。

立ち上がる者、座り込む者、倒れかける者もいる。

曲に翻弄され、恐怖と感動に身体が揺れる。


私はマイクに顔を近づけ、さらに声を振り絞る。


「――まだ、終わらない!!

 燃えろ――夏!!

 奪われた青春、返せ――!!」


声が体育館を震わせ、光が爆ぜ、ギターの刃が観客の心を切り裂く。


汗と髪が顔に張り付き、指先が痺れる。

だが、音の渦は止まらない。

ストロークは暴風、ピッキングは閃光、旋律はまるで怒りの嵐。


曲のリフが高く、低く、怒涛のように叩きつけられ、

観客の歓声と絶叫がそれに呼応する。


私の声は、叫びは、怒りは――

閉じ込められた夏、失われた日々、奪われた青春のすべてを塗り替える。


「――Hazard!!」


最後の叫びが天井を裂き、

私のギターが悲鳴のようなディストーションを響かせた。


爆音。光の奔流。観客の絶叫。


体育館全体が、私たちの音の波に飲まれる。

曲の終わり――

闇が戻る。

残ったのは、熱と、鼓動と、息の乱れだけ。


観客の一部は肩で息をし、座り込んだまま。

「ま、まさか……文化祭でこんな……!」

驚嘆の声があちこちから漏れる。


千秋は涙を流しながら、ピアノの余韻に耳を傾ける。

秋香は深呼吸し、ベースを抱え直す。

結衣は静かにスティックを握りしめ、ステージを守る騎士のように構える。


観客はなおも拍手を止めず、歓声が渦巻き、

声援は曲の余韻に揺れる。

熱狂はまだ冷めない――

私の夏と怒りの旋律が、全ての心を震わせ続けている。


私は汗に濡れた髪をかき上げ、ギターを床に置き、深く息をつく。

心臓が熱を帯び、鼓動がステージと一体になる。


「――次は、もっと燃やす番ね」

心の中で呟く。

ステージ上の私はまだ、完全に静まってはいなかった。

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