表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙のういザード  作者: サファイロス
3章 狂奏のハザード

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/97

17話 屋台の甘さと、お姉様の囁き

「あああ! 二人とも制服似合いすぎ! 写真撮――」


「撮らなくていいわよ!」


雪乃が珍しく少し焦る。


葉月は「ふーん?」とにやつきながら丼を置く。


「雪姉ちゃんっぽいね、その喋り方~」


「ちょっ…!!」


千秋は横でにやけが止まらない。文化祭の喧騒の中、二人だけが時間を止められたように感じる。


まずは屋台のラーメンに挑戦することにした。湯気がふわりと立ち上り、濃厚な豚骨の香りが鼻をくすぐる。


「わぁ……美味しそう」


「ええ、絶対おいしいはず」


千秋が丼を差し出すと、雪乃は小さく微笑んで受け取る。麺をすすると、深い旨味が口いっぱいに広がり、思わず目が合った。


「……千秋、熱いけど大丈夫?」


「大丈夫ですわ……あっ、でも……ふふっ」


千秋の頬が赤く染まる。雪乃も麺を口に運びながら、無意識に指先が千秋の手に触れた。互いの温もりが指先からじんわり伝わり、胸が微かに熱くなる。


周囲は友人たちの笑い声や屋台の呼び声でにぎやかだが、二人にはそれさえ遠く感じられる。麺をすするたび、目が合うたび、距離は自然に縮まっていった。


食後は甘いもので締めることにした。クレープ屋台に並び、千秋は苺クリーム、雪乃はチョコバナナクリームを注文する。


「わぁ、きれい……」


雪乃が手に取ると、千秋も自分の苺クリームをそっと受け取り、笑いながら頬張る。しばらく味わっていたが、千秋がふと思いついた。


「ねぇ……雪乃さん、ちょっと交換してみませんこと?」


「……ええ、いいわ」


二人はクレープをそっと交換する。しかし、ふとした拍子にお互いの鼻先にクリームがついてしまった。


「きゃっ……雪乃さんっ、鼻に!」


「千秋もだよっ」


互いに笑いながら顔を近づけて拭い合ううち、自然と指が絡む。ぎゅっと握るように手が繋がり、千秋の頬は赤く染まった。雪乃の手の温かさが、胸の奥を少しだけ焦がす。


「ふふ……雪乃さんの手、あったかい」


頬が紅く染まり、視線が揺れる。歩くたびに心臓が高鳴る。小さな手のぬくもりが、二人だけの世界を作り出していた。


「……雪乃さん、ずっと繋いでいたいですわ」


千秋は少し前に手を出し、迷わず雪乃の指を絡める。


雪乃は少し間を置き、クールな笑みを浮かべながら応じた。


「……ふふ、そう。いいわよ」


千秋の積極的な手つきに、雪乃は自然と微笑む。指先でそっと千秋の手を握り返し、二人の距離はさらに近づく。歩くたびに小さな心の波紋が静かに広がっていった。


交換した苺とチョコバナナの香りが混ざり、鼻先の甘さがふとした笑いの種になる。文化祭の賑わいも、笑い声も、屋台の呼び声も、二人の世界に溶けていく。手を握ったまま歩くたび、鼓動が互いに伝わり、心が少しずつ重なっていった。


「……雪乃さん、わたくし、ずっとこのままでいたいですわ」


「……ふふ、私も同じ気持ちよ」


そして千秋は、勇気を振り絞り、小さく震える声で尋ねた。


「……雪乃さん、その……“お姉様”と、お呼びしても……よろしいですか?」


雪乃は一瞬目を見開き、千秋の真剣な瞳をじっと見つめる。その視線に、千秋の心臓が跳ね上がる。


「……ふふ、もちろん。いいわよ」


千秋は思わず息を呑み、耳まで真っ赤に染まる。


「……お、お姉様……」


その言葉は、柔らかく甘い鍵のように、二人の心をゆっくりと深く結びつけた。


雪乃は静かに微笑みながら、千秋の手首を包むように指を絡め、そっと手の中に引き寄せる。千秋の小さな手が雪乃の手のひらに溶け込むように温かく重なり、二人の鼓動が互いに響き合った。


「……千秋」


雪乃の声は低く、落ち着いたまま。しかし胸の奥で微かな熱が灯る。千秋は目を伏せながらも、そっと雪乃の手を握り返す。触れる指先ひとつひとつが甘く柔らかく、二人の距離をさらに縮めていく。


雪乃はそっと千秋の顔に手を添え、指先で頬をなぞる。千秋の呼吸が少し乱れ、唇の端が自然に震える。雪乃の指先は優しく、でも確かに二人の間の甘い緊張を引き締めていた。


「……ありがとう、千秋」


「お、お姉様……」


二人は小さく息を合わせ、視線を絡めたまま歩く。手のぬくもり、指の絡まり、微かに香る苺とチョコバナナの甘さ――文化祭のざわめきも、すべて二人だけの世界に溶けていく。


雪乃はさらにそっと千秋を引き寄せ、頭を軽く彼女の肩に近づける。千秋の心臓は高鳴り、胸が熱くなる。二人の指先は離れず、息遣いが少しずつ重なり、静かな幸福感が体中に広がった。


「ずっと……お姉様の隣にいさせてください」


「えぇ……もちろん」


文化祭の雑踏の中で、二人の手は離れず、静かに、穏やかに、心がそっと結ばれていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ