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沈黙のういザード  作者: サファイロス


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15話 千秋の視線、雪乃の微笑み

そこへ――

忍者のような勢いで乱入する影。


「結衣ちゃん!!!

 文化祭でナンパは違反でしょ!!」


葉月様、颯爽と参上。


容赦なく、結衣の襟首を掴み上げる。


「や~ん葉月、苦しいぃ~!

 僕はただ愛に忠実なだけ~!」


「黙れラブモンスター!!!

 ここは文化祭! 出会い系じゃない!!!」


もがく結衣。

静観する秋香。

冷たい瞳の千秋。

そして、微かに笑う私。


「いい? 結衣ちゃん。あんた、一応生徒会長なんだからね!」


「え~僕、王子様だよ~? 生徒会の仕事~」


「違う! イチャつき回る仕事じゃないの!!」


葉月は結衣の襟を掴んだまま、ずるずると引きずっていく。


「憂ちゃん、千秋ちゃん! 文化祭楽しんでねっ!!」


「って、葉月! 君も店戻らないと…っ!」


「会長はまず連行! 店はそのあと!!」


「はぁい~……またね、憂ちゃん」


結衣はウィンクを飛ばしながら、視界の外へ消えていった。


「……嵐みたいな人ですわね」


「……秋香さん、止めないんですか?」


「慣れていますので」


秋香は優雅に髪を払うだけ。混乱などどこ吹く風、という顔。


「私はそろそろ持ち場へ戻りますわ。

 お二人とも、文化祭を楽しんでください」


秋香は私へ意味深に微笑む。


「……もしお時間があれば、

 わたくしの出し物“鉄壁走行ショー”もぜひ。

 あなたの……本当の姿で」


「っ……」


「では、ごきげんよう」


秋香は軽やかに踵を返し、ステージの方向へ去っていった。


胸がざわめく。


ようやく静けさが戻った空気の中――

千秋がそっと、私のほうへ歩み寄る。


ぎゅっと、自分のスカートを握る。


「……憂さん」


「なに?」


「今日のあなた……

 本当に、憂さん ですの?」


私は一瞬だけ固まる。


「え、えっと……?

 わ、私はいつも通り――」


声が微かに震える。

その揺らぎを、千秋は逃さない。


「嘘、ですわよね?」


私は視線を逸らす。


「さっきからずっと……

 視線の強さが違う。歩き方も、声も、指先の動きすら……」


千秋は憂の手を、そっと取る。


「――憂さんのものじゃありませんわ」


その言葉は鋭い。けれど震えていた。


「あなた……雪乃さん ですわね?」


私はゆっくり息を吐く。


「……参ったわね。

 千秋には隠せないか」


“憂”の声なのに

語尾に漂うのは、まぎれもなく私。


千秋は唇を噛む。


「どうして――

 どうして黙っているんですの……?」


「ごめん。

 今日だけ、憂に身体を借りたの」


「そんなこと……

 勝手すぎますわ……!」


千秋の瞳に、熱が宿る。


「ねぇ、千秋」


私は優しく、でも真っ直ぐ。


「私、もう戻れない青春がある。

 だから……ほんの一日だけ

 “憂の学園生活”を体験したかった」


指が微かに震える。

その震えに、千秋は気づいた。


「……ズルいですわ」


「ふふ、よく言われるわ」


「でも……

 一緒にいていいですか?」


「もちろん。

 それが憂の望みでもあるから」


千秋はもう、手を離せなかった。


「雪乃さん。

 今日一日……

 わたくしが、全て案内いたしますわ」


「頼りにしてる」


私は微笑む。

その微笑みは、憂とは違う――

けれど確かに“生きている少女”の輝きだった。


二人は再び歩き出す。


秋の落ち葉が舞い、踏むたびに小さな音を立てる。

風の匂い、友人たちの笑顔、千秋の優しい視線。

それらすべてが、朝の光に包まれた「小さな青春」の輝きに変わる。


今日という一日が、憂の体で過ごす小さな「青春」の一ページになる――

私は、そう確信していた。

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