14話 白凰の舞踏会、憂の仮面
校門をくぐった瞬間、秋の陽光が白い石畳に反射し、柔らかく金色の光が跳ねた。
広々とした庭園。
赤や橙、黄色の落ち葉が絨毯のように敷き詰められ、踏むたびにカサリと乾いた音を立てる。
薔薇のアーチはまだ色を残し、秋の穏やかな風に揺れていた。
遠くから吹奏楽部の軽やかな音色が漂い、空気はまるで秋の舞踏会のように洗練されている。
真っ白な制服に身を包んだ生徒たちが、まるで絵画から抜け出したかのように並ぶ。
レースの襟元やリボン、光沢のある靴まで、ひとつひとつが気品をまとい、小声で交わされる会話も、秋風に乗って澄んだ空気に溶けていた。
「ごきげんよう」
お嬢様同士の挨拶が、柔らかく空気を震わせる。
私は胸の奥で小さく息を呑む。
そのとき――革靴を鳴らし、黒いライダースーツの少女が歩み寄った。
「ごきげんよう。初めまして……六地蔵 秋香ですわ」
凛とした瞳。
女優のような整った顔立ち。艶やかなライトブラウンの髪が風に揺れる。
「憂さん、こちらはわたくしの従姉ですの」
千秋が誇らしげに紹介する。
「初めまして、憂さん。千秋からお話は伺っていますわ」
ライダース姿なのに仕草は完璧な令嬢。
雪乃は思わず魅了される。
「秋香さん……文化祭なのに、その格好で?」
「本日の企画は“鉄壁走行ショー”ですの。鉄の輪をバイクで走りますわ」
「白凰学園、自由すぎるね……」
私は小さく笑う。
憂らしい無邪気な感じを装って。
秋香がふと私を見つめ、意味深に微笑む。
「……憂さん。今日は雰囲気がいつもと違いますわね?」
「えへへ、気のせいだよ?」
――千秋が胸を撫で下ろす。
でも、私の視線は鋭く、少し大人びた何かを含ませている。
そのとき――背後から軽やかな声。
「秋香。紹介まだ~? 僕、待ちくたびれたんだけど」
「結衣さん。少しは慎みなさいな。ここは社交の場ですわよ」
「社交なら任せてよ。可愛い子には優しいのが僕の信条だからね」
ため息をつく秋香。その後ろから――
ショートヘアを揺らし、眩いウィンク。
「やぁやぁ、そこの子猫ちゃんたち、一緒に回らない?」
舞台照明のような存在感。男装の王子、北大路 結衣だ。
「憂、だよね?」
一歩近づかれ、視線が挑発的に絡む。
「君……かわいいね。僕と回らない? 世界で一番、素敵な場所を案内するよ」
私は涼しく微笑み、小さく一歩後ろに下がる。
「ごめんなさい。もう大事な予定があるので」
結衣は胸を抑え、オーバーに肩を落とす。
「冷たいなぁ……僕、簡単に惚れちゃうタイプなのに」
その視線は千秋へと移る。
「じゃあ、そっちのお嬢様、僕とデートしよ?」
「お断りいたしますわ」
千秋は迷いなく憂の腕に寄り添い、恋人つなぎで絡める。
「わたくしは、憂さんとご一緒しますので」
「へぇ……」
結衣の目が細くなる。
「その距離感……独占欲、強いタイプだね。そういう子、大好きだよ?」
千秋は顔を赤らめながらも、絶対に譲らなかった。




