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沈黙のういザード  作者: サファイロス
3章 狂奏のハザード

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第1話 狂奏のハザード

 放課後の教室は、いつも以上にざわめいていた。


 黒板に大きく書かれた文字。


『文化祭 出し物会議』


 ざわざわと弾む声。

 どこかワクワクした空気が教室全体に満ちている。


 憂は席にカバンを置き、少し姿勢を小さくした。


「みなさーん、静粛にお願いいたしますわ!」


 澄んだ声が響く。

 クラス委員長──六地蔵 千秋が前に立っていた。


 優雅な所作でプリントを広げる。


「アンケートの集計結果がまとまりましたわ。

 こちらが上位候補です」


メイド喫茶


お化け屋敷


カフェ&軽食


手作り雑貨屋


脱出ゲーム


「メイド喫茶いいじゃーん!」


「メイド服とか可愛いに決まってる!」


 憂はそっと千秋を見る。

 彼女の凛とした横顔──

 どこを切り取っても完璧なお嬢様。


(千秋ちゃんがメイド服着たら……

 絶対、綺麗で可愛くて……

 みんなの視線、全部奪っちゃう……)


 そんな妄想が頭をかすめて、憂はぶんぶん首を振る。


 そのとき。


「憂さん」


「ふぇっ!?」


 急に名前を呼ばれて、変な声が出た。


「あなたは“どれでも良い”と書いていましたけれど

 本当に希望はありませんの?」


「た、楽しいなら何でも……」


「では、たとえばメイド喫茶の看板娘など」


「む、無理むりむりむり!!」


「人前が苦手ですの?」


「そ、そうだし……!」


「あとさぁ千秋、憂ってさ」


 後ろの席の男子が、ひそひそ声で言う。


「料理させたら“味見”で全部なくなるんだよな」


「言うなぁぁぁぁぁ!!!」


「ほら、去年のクッキー事件!」


「焼き上がった瞬間、一人で半分はいったよな?」


「ち、ちがうの! 確認しただけなの! 確認!!」


「うわぁ、去年のクッキー事件……!」


「一瞬で鉄板が空っぽだったよな!」


「ち、ちがうの! あれは確認で、確認であって……!」


「では厨房『立入禁止』にいたしますわね」


 千秋の即答に教室が笑いに包まれる。


「憂ちゃん接客なら最強じゃん!」


「看板娘で決定~!」


「勝手に決めないでぇ!!」


 わたわたする憂に、千秋はそっと近づく。


「安心して。

 衣装は六地蔵家の特別仕立てをお貸しいたしますわ」


「特別仕立て……?」


「ええ。

 我が家で実際に仕えているメイドが着用している、

 本物の、格式ある制服ですわ」


(葉月姉も……六地蔵家でメイド服着てた……

 あんなキラキラ、わたしに似合うわけ……)


 あの日の光景が胸をよぎる。

 自信満々な姉の姿。

 少し憧れた、自分では持っていない“キラキラ”の服。


 胸がくすぐったく震える。


「紅茶もご用意いたします。

 六地蔵家の名をかけて、最高の茶葉を」


 千秋は教壇へスタスタと歩き──

 黒板の前に立った。


 白いチョークを手に取る。


 カッ、カッ、カッ……


 その筆運びは迷いがなく、美しい。


《エメロード》


「エメロード?」


「なんかオシャレ!」


「“翡翠ひすい”の色ですわ」


 千秋が少し微笑む。


「憂さんの誕生石をテーマに、

 そのまま店の宝にいたしますわ」


 憂の顔は真っ赤。

 対して千秋の瞳には疑いがない。


 キラキラと純粋な期待だけが宿っていた。


「憂さんが着るメイド服は……

 きっと、この上なく輝きますわ」


「賛成の方、挙手!」


『はーい!!』


 勢いよく上がる手、手、手。

 教室が沸き立つ。


「では正式に──

 我がクラスの出し物は

 メイド喫茶エメロードといたします!」


 拍手と声援。


 熱気に包まれる中、

 憂はそっと胸に手を当てた。


 心の奥で

 小さな火が灯る。


 こうして──

 とびきり忙しくて、とびきり眩しい、

 そして

 ちょっぴり“危険な”文化祭の一日が

 静かに始まったのだった。

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