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沈黙のういザード  作者: サファイロス


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28話 未来の糸

タロットカードの山が、ようやく静かに息を潜めた。

部屋のランプの光が、散らばったカードに柔らかな影を落とす。


雪乃の気配が消え、憂の穏やかな寝息だけが響く中、

菊子はゆっくりと立ち上がった。


(雪乃さん……あなたの願いを、必ず叶えますわ)


彼女はテーブルの上を片付け、カードを丁寧に揃えていく。

指先がデッキに触れるたび、今日の対決の余韻が胸に蘇る。


雪乃の棘のある言葉、優しい願い、そして最後の微笑み。

すべてが、菊子の心に小さな灯をともしていた。


「千秋に……会いに行きますわ」


独り言のように呟き、菊子は窓辺に寄る。

外は真っ暗な海。

船の揺れが、かすかな波音を運んでくる。


彼女はデッキを手に取り、そっとシャッフルを始めた。


(雪乃さん、あなたの音が……まだここに残っているようですわ)


占いは、ただの遊びではない。

これは、母として——いや、人として、未来を覗くための儀式。


雪乃の願いを胸に、菊子は目を閉じ、深く息を吸った。


「未来を……見せてくださいませ」


カードの山に手を置き、三枚を静かに引き抜く。

過去・現在・未来のスプレッド。


一枚ずつ、ゆっくりとめくる。


――――


第一枚:過去――

《隠者(THE HERMIT)・正位置》


ランプの光が、カードの老人の姿を照らす。

灯りを手に、孤独な道を歩む隠者。


菊子は小さく息を吐いた。


(雪乃さんを失った日……わたくしたちは、皆、光を失いましたわ)


あの冬の記憶。

雪乃の悲鳴、崩れ落ちる家、千秋の震える手。


菊子自身も、隠者のように闇に閉じこもり、

娘を守るために自分を閉ざした。


だが、今は違う。

雪乃の言葉が、その灯りを再び灯してくれた。


――――


第二枚:現在――

《節制(TEMPERANCE)・正位置》


天使が杯を傾け、水を混ぜ合わせる姿。

調和とバランス、癒しの象徴。


菊子は微笑んだ。


(今、わたくしたちは……少しずつ、混ざり合っていますわね)


憂の涙、リナの音、葉月の笑顔。

船の旅が、バラバラの心を優しく溶かし合わせている。


雪乃の気配が、憂の中に宿り、皆を繋ぐ。


菊子自身も、今日のゲームで、雪乃の優しさに触れた。

それは、調和の始まり。


千秋への道を、静かに整えるためのもの。


――――


第三枚:未来――

《世界(THE WORLD)・正位置》


最後のカードがめくられ、菊子の瞳が輝いた。

輪舞する女性、四つの生き物を従え、完成の冠を被る。


成就、統合、旅の終わりと新しい始まり。


(……美しいわ)


菊子はカードを胸に押し当てた。

未来は、皆が一つになる。


だが、カードの周囲に浮かぶ微かな影が、彼女に囁く。


――秋に、鍵が開く。


雪乃の残した“重要な鍵”が、誰かの手によって見つかる。

それは、師弟の絆が芽生え、秘めた想いが静かに灯る瞬間。


鍵は、失われた音を呼び覚ますヒントとなり、

成仏への道を優しく照らす。


――冬に、運命の嵐が訪れる。


雪乃の気配が、最後の輝きを放つ。

船の旅の果てに、雪乃が引き起こす“運命的な出来事”。


それは、痛みを伴う別れと継承の瞬間。

曲が心から心へ受け継がれ、

脆い精神が試される嵐。


だが、再生の雪のように、白く清らかなもの。


――来年、千秋のターニングポイント。


輪舞の中心で、千秋が立ち上がる。

母の帰還、憂の歌、雪乃の遺志。


すべてが交わり、千秋は“世界”の冠を被る。


遠い地への旅立ちが、別れの痛みを伴いつつ、

新しい翼を与える。


――――


菊子はカードを揃え、憂の寝顔に視線を移した。


(雪乃さん……あなたが見守る未来は、きっと美しい)


彼女はそっと毛布をかけ直し、部屋の灯りを落とした。


夜の海は静かに進む。

カードの予言が、船の揺れとともに、皆の心にそっと染み込んでいく。


――秋の鍵、冬の嵐、来年の輪舞。


それは、誰も知らない、優しい運命の糸だった。


船の旅は、まだ続く。

未来の音が、遠くから聞こえ始めるように。


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