表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙のういザード  作者: サファイロス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/86

第14話 置いていかれた気持ちを、リナが拾った夕暮れ

午後のバスは美瑛へ向かった。

窓の外には広大な丘陵が続き、雲の影が丘の上をすべるように流れていく。


「ここが……四季彩の丘……」


バスを降りた瞬間、憂は息をのんだ。


一面に広がるカラフルな花畑。

ラベンダー、マリーゴールド、サルビア、ケイトウ。

まるで絵筆で塗り分けたような“色の大地”が波打ち、

風が吹くたび揺らめいて、視界じゅうが鮮やかに染まる。


「奥様、見てください! すっごい……!」


「まぁ……これは壮観ですわね。葉月さん、嬉しそう」


「はいっ! 北海道最高です!!」


ふたりは自然に歩調を合わせ、景色を指さしながら楽しそうに並んでいく。


(……まただ)


憂は数歩だけ後ろを歩き、胸の奥がきゅっと痛むのを感じた。

千秋の母と姉が並んで楽しそうにしている――

その光景が、なぜか胸を曇らせる。


(千秋にも……こうやって笑ってほしいのに……)


一行は“青い池”へ向かった。


「うわぁ……水、ほんとに青い……!」


葉月が感嘆の声を上げる横で、

菊子は静かに水面に視線を落としていた。


「まるで絵画のようですわね……

 この色……不思議と心が落ち着きます」


(……わたしは、全然落ち着かないよ……)


ふたりの横顔を見つめるたび、胸が重くなる。

姉の明るさと、菊子の柔らかい微笑み――

その“間”に自分の居場所が見えなくなる瞬間があった。


(お姉ちゃんばっかり……奥様と仲良くして……)

(わたし、いらないの……?)


水面に落ちる太陽の光が、眩しく滲んだ。


次の観光スポットは広い牧場だった。


「奥様、ほら牛です牛!!」


「まぁ……本当に大きいですわね。触ってみます?」


「いいんですか!? わぁぁ……!」


ふたりの明るい笑い声。

自然な距離感。

息を合わせるような会話。


憂は少し離れた場所から草の匂いを吸い込んだ。


(……胸が苦しい……)


ペンダントを握る。

緑の石が夕陽を受けて、指先に温度を返してくる。


(千秋……)

(……いま、そばにいてよ……)


夕陽に染まる原野を歩きながら、憂はふたりと少し距離を置いていた。

葉月は菊子と並び、景色を見ながら談笑している。


「奥様、今日ほんと楽しいです!

 憂ちゃんに感謝ですね、誘ってくれて」


「ふふ……本当に、素敵な一日ですわ」


(……聞きたくなかった……)


足が重くなり、視線が落ちていく。


(なんで……こんなに悲しいんだろ……)


目の奥が熱く滲んだ、その瞬間――


――カシャン。


背中のほうから小さな金属音。

次の瞬間、憂の肩に冷たい影が落ちた。


「……またその顔してる」


「っ……!」


金髪ツインテール。

鋭い灰色の瞳。


リナだった。


「いつから……?」


「さっきから後ろにいたわよ。気づかないほうが悪い」


そして――憂の額に“ひんやりとした冷たさ”が触れた。


「冷たっ……!」


「はい、動かないで」


きんっと冷えた缶ジュースが額に押し当てられる。

熱を吸われるたび、憂の心も少し落ち着いていく。


「……な、なに……?」


「あなた、顔に全部出るんだから。

 泣きそうなの、丸わかりよ」


「な、泣いてない……!」


「嘘。目が赤い」


「うっ……!」


リナは小さくため息をつき、缶を憂の手に押し付けた。


「ほら。持ってなさい。

 頭の熱、少しは冷えるでしょ」


「……ありがと……」


「勘違いしないで。

 見てて……なんか、イラッとしただけ」


「えっ……?」


「泣きそうな子を放っておくと、

 私が悪者みたいじゃない」


強い言い方なのに、

その瞳だけは――ほんの少し憂を案じていた。


「葉月と菊子さんが仲良くしてるの、ずっと見てたんでしょ」


「……っ!」


「嫉妬してるんでしょ」


「ち、違う……!」


「嘘」


きっぱりした声。

だけど、その奥にはほんの微かな優しさがあった。


「でもね」


リナの視線が、憂の胸元へ向けられる。

エメラルドが夕陽できらりと光った。


「あなたには、ちゃんと“帰る場所”あるでしょ」


「……うん……」


「その子が心配するから泣かないの。

 それだけよ」


言葉はツンと尖っているのに、

心の奥に真っ直ぐ届く。


「ほら、行くよ。置いていかれる」


リナが歩き出す。


「ま、待って……!」


憂は慌てて後を追いかけた。


夕暮れの港へ向かう道。

紫の風がまだ香っている。


つかず離れずの距離で歩くふたり。


――今日いちばん、憂の胸が軽くなった瞬間だっ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ