第8話 夜風に触れた涙の音
外のデッキに出ると、
穏やかな潮風が頬を撫でた。
憂は手すりに寄りかかり、ゆっくり息を吐く。
(千秋のお母さん……優しいのに……
時々、すごく鋭いとこに踏み込んでくる……)
胸がズキッと痛む。
ネックレスに触れると、
千秋の手が思い出される。
(千秋……
なんで今日は来てくれないの……)
海風が吹き、
憂の髪がふわりと揺れた。
その風に混じって、
小さな足音が近づいてきた。
振り向くと――
金髪ツインテールの少女、リナ。
夜の照明が金髪を縁取って、
まるで光の輪のように見える。
「……食事会、もう終わり?」
「リナさん……どうしてここに?」
「別に。
あなたが外に出るの、見えたから」
声はツンと冷たいのに、
理由だけは完全に“憂のため”。
(なんで……そんなに気にしてくれるの?)
リナは横に立ち、
手すりに肘をつく。
「菊子様と……なんかあったんでしょ」
「……少しだけ」
「だと思った。
あの人、優しいけど……容赦ないから」
それは、
明らかに“経験者の声”だった。
(……リナも、千秋のお母さんに……?)
「あなた、泣いてない?」
「……泣いてないよ」
「嘘くさい」
「うっ……」
「でも、いいよ。
泣きたいときは泣けば?」
リナは海を見つめたまま言う。
その声は冷たくなくて――
むしろ優しい。
「“大切な人のこと”で泣くのは……悪いことじゃない」
胸に、熱いものが押し寄せる。
千秋。
雪乃。
葉月。
そして、今こうして隣にいる――リナ。
葉月が気を利かせたのか、
憂とリナのまわりだけ、静かな空気になっていた。
「……ねぇ」
リナが憂の胸元を指さす。
「そのネックレス。
大事にしてあげて」
「……うん」
「千秋は――
本当に、あなたを好きなんだから」
喉の奥がきゅっと締まる。
リナはそっぽを向きながら、
「ま、本人がいないところで言っても意味ないけどね。
……戻りなさい。あの人、心配するから」
金髪ツインテールが揺れ、
リナは歩き出す。
憂は胸を押さえながらその背中を追った。
その不安と期待を抱えたまま、
憂は再びレストランの扉へ向かう。




