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沈黙のういザード  作者: サファイロス


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エピローグ1 六地蔵家

数日後の高速道路。

車内は静かで、石田が運転席でハンドルを握る。

普段は黒のスーツだが、今日は私服姿で、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。


後部座席には千秋と、久しぶりに顔を合わせる千秋の父が座っていた。

髪はわずかに白が混じったダークブラウンで、きちんと整えられている。

彫りの深い顔立ちは、どこか千秋とよく似ていて、特に鋭い目元と口元の柔らかさがそっくりだ。

年齢を感じさせる落ち着きと包容力を併せ持つ、その佇まいには自然と目を引く魅力があった。


ふと、千秋の視線は前方のセンターコンソールに置かれた車のキーに止まった。

車のキーに付いた小さなカエルのキーホルダーがぶら下がっており、丸く大きな瞳とぷにぷにの手足は相変わらず愛らしい。


さらに、マントの氷の結晶は光を受けてちらちら輝き、跳ねるたびに小さな光を散らす。

杖を軽く握った姿は控えめで、まるで「小さな魔法を使えるかもしれない」とそっと感じさせるようだ。


「……あのカエル、可愛いですね……」


千秋は静かに呟いた。


石田はハンドルに手を添えたまま、ほんの少し微笑む。


「憂さん、先日の件のお詫びも兼ねています」


控えめながら温かさを持つその仕草は、憂の人柄を映していた。

相手を思いやる優しさと、少しの申し訳なさが混ざった不思議な温かさ。

まるで「ごめんなさい、でも大丈夫」と魔法の力を借りてそっと手を差し伸べてくれるようだった。


千秋は目を細め、少し羨ましそうにそのカエルを見つめる。

小さな魔法使いのカエルが、控えめながら車内の緊張をふわりと溶かしているように見えた。


窓の外を眺めながら、千秋はぽつりと呟く。


「……お母様、今回の件でひどくご立腹でしたわ」


千秋父はその言葉にビクリと反応し、慌てて身を乗り出す。


「ち、ちあきく~ん! 千秋様! いやいや、千秋観音様~!

この父めを、どうか、どうかお救いくださいませ~!」


千秋は扇子で口元を隠しながら、冷ややかにピシャリと返す。


「わたくしは千手観音ではありませんわ!」


「妻上に直接謝る勇気が、この夫には、ございませぬ……!」


千秋父は両手を合わせ、今にも泣き出しそうな声で懇願する。


「千秋様、どうか!妻上に! お取りなしを……仲裁を……!」


しかし、千秋はきっぱりと答えた。


「無理ですわ。……お父様、お母様は一週間、口をきかないと仰っておりましたわ」


「なっ……!」


千秋父は絶望したように前のめりになり、顔を覆った。


「ひ、ひどい……我が妻よ……! 家庭内無言の刑とは……!」


石田は運転席でわざと咳払いをして、低く呟く。


「……ご主人様。日頃のおこないが原因かと」


「ぐぬぬぬぬ……! 石田くん、それを言うでない!」


千秋父は涙目で反論するが、声には力がない。


千秋は冷ややかに視線を投げる。


「お父様。妻に許しを乞うのは夫の責務です。

娘を使って仲裁を頼むなど、愚の骨頂ではなくて?」


千秋父はぐうの音も出ず、助手席で小さくすすり泣く。

胸の奥では、父親としての責任感が重くのしかかっていた。

――娘たちを危険に巻き込んだのは、すべて自分の責任だ。

そして、頭をよぎるのは今回の騒動――石田の“いじめ”演出も、葉月の刺される演出も、すべて自分が考えたシナリオだという事実。

娘たちがあの時、どれほど危険に晒されたかを想像するだけで、胸がぎゅっと締め付けられる。


石田の視線も気にせず、千秋父は小さく肩を震わせながら、心の中で誓った。

――二度と、娘たちに危険を感じさせるような真似はしない、と。



やがて、ラーメン屋の看板が見えてくる。

車内の空気が少し和らぐ。

千秋父はうつむいたまま、肩を小さく落としてしょんぼりしている。

石田はハンドルを握り直し、後ろを振り返らずとも、わずかに笑みを浮かべる。


石田がふとカエルのキーホルダーを見ると、まるで小さな丸い瞳でご主人様をじっと見つめ、クスクスと笑っているかのように見えた。


「……この子、私たちを笑っているようですね……」


千秋父はハッとして目を見開き、まるでカエルに言い負かされた気分で肩を震わせる。


そのとき千秋は、バッグから自分の携帯ストラップに付いたカエルを取り出し、ニヤリと見せる。


「ふふん、実はわたくしも憂さんからいただいたのですの。ほら、この子……かわいいでしょう?」


千秋の手の中でカエルは小さく跳ね、光を受けて紅葉のような橙色と深い赤がちらちら輝く。

まるで紅葉の精が宿ったかのように、秋色に染まり、石田のカエルとは違う色合いで存在感を放っていた。


少し誇らしげに、千秋はまるで「これで私も仲間入りですのよ!」と言わんばかりにカエルを揺らす。

石田は微笑み、千秋父も思わず笑って肩の力を抜いた。


千秋は窓の外の景色を眺めながら、心の中でそっと思った。


『こうしてお父様と一緒に、何気ない時間を過ごせること……久しぶりなのかしら』


そして小さく微笑み、次の瞬間に思いを馳せる。


『今日は家族で久しぶりに食事を楽しめる。

ラーメン屋で笑って話せる……この平和な時間を大切に……

憂さん、葉月さん、雪乃さん、ありがとう』


千秋父は娘の微笑みを見て少し肩の力を抜き、心の中で小さく安堵する。


車内には静かな温かさが流れ、事件後の平穏がゆっくりと、しかし確かに訪れていることを告げていた。


カエルの魔法使いは跳ねるたびに光を散らし、憂の想いを家族にそっと伝えているかのようだった。

車内には静かで温かな平穏が漂い、事件後の時間がゆっくりと戻ってきていることを感じさせた。

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