第23話 嵐はまだ終わっていない
受話器の向こうから、落ち着いた声が聞こえる。
「ご主人様、ご報告です。憂さんに関する件、整理が完了しました」
千秋の父の声が返る。
「わかった。詳細を聞かせてくれ」
石田は淡々と報告を始めた。
怪文書、破損事件、転落事故、脅迫メール――。
ひとつずつ、静かに整理していく。
「……現状、涼香さんの自白で四件の事件は説明可能です。
しかし、すべてが整合しているとは言い切れません」
そして、言葉を選ぶように付け加えた。
「憂さんが眠っている間、『雪姉』と寝言を漏らしました。
御陵家の長女・雪乃様は幼少期に交通事故で亡くなっています。
この寝言が、潜在的な記憶や心理的影響に関係している可能性があります」
「……なるほど。それは重要だ」
千秋父の声がわずかに低くなる。
「脅迫メールの件も、涼香の自白だけで終わらせるな。徹底的に調べてくれ」
「承知しました、ご主人様」
通話が切れ、静寂が戻る。
屋敷には、再び雨の音だけが響いていた。
石田は受話器を見つめながら、小さく息を吐く。
表面上は整理された事件。
しかし、心理的な影と未解明の“何か”が、まだ確かに残っている。
――静寂の中、嵐は終わっていなかった。




