表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙のういザード  作者: サファイロス
1章 沈黙のういザード

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/96

第19話 甘い匂いと破られたノート

廊下は重苦しかった。窓から差し込む光が床に細い影を描く。憂はそっと歩き、葉月の様子を窺った。


「葉月さん、また皿の順番が違うじゃないですか」


涼香の声は冷たく、刃のように胸に刺さった。葉月の肩が小刻みに震え、手が止まる。皿を動かすたびに指先が固まり、うまく扱えない様子が伝わってきた。


涼香は肩越しに見下ろし、わずかに笑った。


「ねえ、そんなに震えて……本当に、やる気あるの?」


その軽蔑は骨の髄まで染み渡るようだった。葉月が顔を伏せると、涼香はわざと肩に手をかけ、少し圧を加えた。


「もっときちんとできるんでしょう? こんな簡単なことも間違えるの?」


言葉だけでは足りないとばかりに、涼香は葉月の手首を軽くつかみ、紙を持つ手の動きを制した。


「どうして昨日と同じ失敗を繰り返すの? 本当に学習能力ないの?」


嘲る声がじわじわと胸の奥に重くのしかかる。憂は息を飲んだ。目の前で誰かを支配する光景が、これほど冷たく見えるとは思わなかった。


そのとき、涼香が憂の存在に気づき、鋭く視線を向けた。瞬時に表情を整え、柔らかな笑顔に切り替える。


「憂様、ご休憩ですか? ちょっと手違いがあっただけです」


その言葉に、憂の心は小さく揺れた。あの微笑みの裏に潜む冷たさを、ほんのわずかに感じた――だが声に出せるのはただの心配だけだった。


休憩が終わり、憂は千秋の部屋に向かった。廊下はいつもより静かで、午後の光が差し込んでいた。


机の上に目をやると、信じられない光景が広がっていた。ノートはびりびりに破かれ、ページが床に散らばっている。折れたペンが転がり、インクのしみが淡く光を反射していた。ほのかに甘い匂い――手に塗るクリームのような香りが、そこに混じっている。


胸がざわついた。どうしてこんなことに――理由がわからない。驚きと違和感が、言葉を奪った。


そのとき千秋が部屋に入ってきた。目を丸くして憂を見つめる。


「……憂……?」


彼女の手が胸の前で小さく震えた。千秋の存在だけが、かすかな安心を与えてくれるようだった。


「大丈夫よ。落ち着いて」


その声に、憂の心がほんの少し和らいだ。だが机の上の破れたノートと折れたペン、そして香りは、憂の胸に冷たい影を落としたままだった。


「一緒に片付けましょう」


千秋がそう言った。憂は小さくうなずき、散らばった紙を拾った。千秋は黙って隣で見守る。その存在だけが、わずかな温かさを与えてくれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ