表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙のういザード  作者: サファイロス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/86

第18話 囁かれた脅し

セダンは静かに街を抜け、

自宅への道を滑るように進む。


運転席には石田が座り、視線は前方にしっかり固定されている。

後部座席には憂と葉月が腰掛けていた。


「ねえ、葉月姉、今日のバイトはどうだった?」

憂はにこやかに尋ねる。


葉月は少しだけ目を伏せ、柔らかく微笑む。

「うん、順調だったわ。でも、ちょっと疲れたかも……」


憂はその声色から気づきそうになるが、

葉月の丁寧な言葉遣いと仕草に、異変にはまだ気づかない。

「そっか、がんばったんだ!」


葉月は軽くうなずき、窓の外の景色を見つめる。

疲れはあるが、憂に心配をかけたくない――

だから自然な笑顔を作る。


「ありがとう、憂ちゃん。すいません、石田さんもいつも運転お疲れさまです」


「いえ、私もこうして二人と話せて楽しいですから」

石田は淡々と答える。

ハンドルを握る白い手は安定していて、

時折窓越しの風景を楽しむ二人を優しく見守る。


会話は続き、途中で憂が笑いながら葉月の軽口に返すたびに、

葉月も自然に微笑み返す。

外から差し込む夕暮れの光が、車内に柔らかな温もりを運ぶ。


やがて家の前に差し掛かる。

セダンをゆっくり停めると、葉月は小さく息を整え、憂に声をかけた。


「憂ちゃん、先に家に入っていてくれる?

私、石田さんと少し相談があるの」


憂はにっこり微笑む。

「わかった、葉月姉。じゃあ、私は先に入るね」


葉月が手を軽く振ると、憂は楽しげに車を降り、

玄関に向かって歩き、家の中へ入っていった。


石田は葉月の横顔を静かに見つめる。

わずかに眉を寄せると、葉月の緊張が少しでも和らぐよう、気配を消して待った。


葉月は後部座席からそっと身を乗り出し、助手席に移動する。

石田はエンジンを切ったまま、静かに葉月を見やる。


「葉月さん、こちらでよろしいですか?」

石田の声は落ち着いているが、

ほんの一瞬だけ目元に緊張の影がよぎる。


葉月は軽くうなずき、窓の外に視線を落とす。

手のひらをぎゅっと握りしめ、息を整える。

心臓が小さく跳ね、胸の奥で鋭く響くのを感じながら、口を開いた。


「……石田さん、少しお話があって……」


石田は静かに頷き、体をわずかに葉月の方に向ける。

内心では、葉月の声の震えに小さな不安を覚えつつも、冷静を装う。


「はい、落ち着いてお話しください」


葉月は窓の外を見つめたまま、指先の震えを抑えて続ける。

「休憩中、レシピ本を見返していたら……

奇妙な紙が挟まっていました。

文字が歪み、殴り書きのようで……

 千秋家の仕事など、続けるな!って」


その瞬間、葉月の視界がわずかに揺れ、息が一瞬止まった。

冷や汗が背筋を伝い、心臓が跳ねる。

紙をぎゅっと握りしめ、震える指を意識した。


石田は眉をひそめることなく、慎重に言葉を選ぶ。

だが内心では、この脅迫の事実に一瞬だけ緊張が走った。


「……脅迫文ですね。それは初めて知りました」


葉月は視線を窓の外に向け、体を小さく震わせる。

手元の紙が重く、冷たく、胸の奥に針を差すように感じられた。


「読んだ瞬間、手が震えて、冷や汗が出そうでした……

でも、憂ちゃんと千秋ちゃんには絶対に気づかれたくなくて」


石田は優しい視線を向け、落ち着いた声で言った。

「よく話してくれましたね、葉月さん。

これで初めて対応を考えることができます」


葉月は小さく息をつき、肩の力をわずかに抜く。

車内に漂う夕暮れの光と、外を通る風の音が、

緊張の余韻を柔らげる。


石田は葉月の手元を見つめ、静かに口を開く。


「まず、この紙を安全な場所に保管してください。

誰の目にも触れないように、鍵のかかる引き出しが望ましいです」


葉月は小さく頷き、紙を慎重に折りたたんでカバンにしまう。

「……わかりました」


石田は続ける。

「次に、バイトや書類の管理は二重の確認を行ってください。

休憩中も、念のため人目のある場所で確認すること。

怪文書が再び現れる可能性もあります」


葉月はわずかに息を飲む。

外の風が木の葉を揺らし、その音に心拍が合わせて早くなるように感じた。


「……はい、気をつけます」


石田は声をさらに低め、指示を重ねる。

「そして、憂さんや千秋お嬢様には絶対に知らせないこと。

混乱を避けるためです。

あなた一人で抱えることになりますが、私が責任を持ってサポートします」


葉月は小さく息をつき、視線を石田に向ける。

「……ありがとうございます。石田さん、私、がんばります」


石田は微かに頷き、穏やかで確かな眼差しを向ける。

心の奥で、葉月の恐怖が少しでも和らぐことを願った。


青いセダンの車内は、

夕暮れの光と静けさが重なり、

緊張と安心感が入り混じった不思議な空間になった。


葉月は小さく息を整え、

次の行動への覚悟を固めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ