第12話 受験 — 君が待つ場所へ —
――千秋がドイツでの受験を終えてから、数週間。
憂はすでに白凰学園の推薦合格が決まっている。
でも今日はいよいよ、本命。
公立・東野高校の受験日。
冬の朝は、肌を刺すように冷たい。
けれど、それすら背中を押してくれる気がした。
「……よっし!」
鏡の前で自分に気合を入れる。
目の下にうっすらクマ。
昨夜は緊張で何度も起きてしまった。
ネックレスを握りしめ、玄関へ向かった、その瞬間——
「止まりなさい!!」
「ひぃっ!!」
葉月が両手を広げて仁王立ち。
受験生の前に立ちはだかる魔王か。
「朝ごはん大丈夫? 緊張で抜いてない?」
「ちょっとしか入らなかった……」
「ならこれ! はい!!」
勢いよく差し出される袋。
「勝利をつかめ!激カツサンド!!!」
「激カツって!名前からクセ出しすぎるよ、葉月姉!!」
「一口サイズだけど中身はカツ多め!
敵を全部“食って”来なさい!!」
「胃の悲鳴が聞こえる未来が見えた……」
「安心しなさい! お茶もあるわよ!
葉月特製・胃に優しいカモミールフレーバー!!」
「ありがたいけどミスマッチ!!」
言いつつも、自然と笑ってしまう。
この姉の明るさが、今日ほど心強い日はない。
「さて、気分はどう?」
「……なんか、いける気がしてきた!」
「その調子!」
葉月は憂のマフラーを直して、
鼻先をちょんっとつつく。
「あたしの憂ちゃんは勉強できて可愛くて努力家で、
ついでに天才なの。
首席でも狙ってらっしゃい!」
「狙う!! 首席をいただきます!!」
「はい出ました! 首席宣言!!」
「えへへ……言っちゃった!」
「ほんとに取っちゃいそうなのが怖いのよ憂ちゃんは」
心配しつつもどこか誇らしげ。
「合格どころかトップ合格して
新聞に載って……インタビューされて……
姉としての見栄えが……!」
「そこ!? 見栄えなの!?」
「当たり前でしょう?
わたしの妹が主役なんだから、自慢の妹じゃなきゃ困るわ」
急に真顔で言うから、
憂の胸にじんわり熱が広がった。
「……ありがとう、葉月姉」
「それとね」
「うん?」
「もし落ちても、白凰で一緒に登校できるから安心して♪」
「落ちない前提で応援してぇぇぇぇ!!」
姉の満面の笑みは、からかわれてる気もするけど、なぜか嬉しかった。
「どんな結果でも、憂の価値は変わらない。
それは絶対に揺らがないわ」
「……うん」
「だから思いっきり行ってきなさい。
千秋ちゃんと同じ未来を掴むために!」
憂はマフラーの端をぎゅっと握る。
笑い合う声が、白い息になって空に昇り、消えていく。
(千秋……見ていてね。
わたし、絶対に合格するから)
瞳の奥に——
強さと、夢と、恋の熱が宿る。
「行ってきます!!」
「ええ、行ってらっしゃい!
帰ってきたら祝賀会の打ち合わせしましょうね!!」
「もう決定してるの!?」
憂は笑顔で走り出した。
受験生たちが行き交う駅前へ向かうその背中は、
冬の朝の光を受け、
誰よりも勇ましく輝いていた。




