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沈黙のういザード  作者: サファイロス
4章 昇華のブリザード

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第12話 受験 — 君が待つ場所へ —

 ――千秋がドイツでの受験を終えてから、数週間。


 憂はすでに白凰はくおう学園の推薦合格が決まっている。

 でも今日はいよいよ、本命。


 公立・東野高校の受験日。


 冬の朝は、肌を刺すように冷たい。

 けれど、それすら背中を押してくれる気がした。


「……よっし!」


 鏡の前で自分に気合を入れる。

 目の下にうっすらクマ。

 昨夜は緊張で何度も起きてしまった。


 ネックレスを握りしめ、玄関へ向かった、その瞬間——


「止まりなさい!!」


「ひぃっ!!」


 葉月が両手を広げて仁王立ち。

 受験生の前に立ちはだかる魔王か。


「朝ごはん大丈夫? 緊張で抜いてない?」


「ちょっとしか入らなかった……」


「ならこれ! はい!!」


 勢いよく差し出される袋。


「勝利をつかめ!激カツサンド!!!」


「激カツって!名前からクセ出しすぎるよ、葉月姉!!」


「一口サイズだけど中身はカツ多め!

 (問題)を全部“食って”来なさい!!」


「胃の悲鳴が聞こえる未来が見えた……」


「安心しなさい! お茶もあるわよ!

 葉月特製・胃に優しいカモミールフレーバー!!」


「ありがたいけどミスマッチ!!」


 言いつつも、自然と笑ってしまう。

 この姉の明るさが、今日ほど心強い日はない。


「さて、気分はどう?」


「……なんか、いける気がしてきた!」


「その調子!」


 葉月は憂のマフラーを直して、

 鼻先をちょんっとつつく。


「あたしの憂ちゃんは勉強できて可愛くて努力家で、

 ついでに天才なの。

 首席でも狙ってらっしゃい!」


「狙う!! 首席をいただきます!!」


「はい出ました! 首席宣言!!」


「えへへ……言っちゃった!」


「ほんとに取っちゃいそうなのが怖いのよ憂ちゃんは」


 心配しつつもどこか誇らしげ。


「合格どころかトップ合格して

 新聞に載って……インタビューされて……

 姉としての見栄えが……!」


「そこ!? 見栄えなの!?」


「当たり前でしょう?

 わたしの妹が主役なんだから、自慢の妹じゃなきゃ困るわ」


 急に真顔で言うから、

 憂の胸にじんわり熱が広がった。


「……ありがとう、葉月姉」


「それとね」


「うん?」


「もし落ちても、白凰で一緒に登校できるから安心して♪」


「落ちない前提で応援してぇぇぇぇ!!」


 姉の満面の笑みは、からかわれてる気もするけど、なぜか嬉しかった。


「どんな結果でも、憂の価値は変わらない。

 それは絶対に揺らがないわ」


「……うん」


「だから思いっきり行ってきなさい。

 千秋ちゃんと同じ未来を掴むために!」


 憂はマフラーの端をぎゅっと握る。


 笑い合う声が、白い息になって空に昇り、消えていく。


(千秋……見ていてね。

 わたし、絶対に合格するから)


 瞳の奥に——

 強さと、夢と、恋の熱が宿る。


「行ってきます!!」


「ええ、行ってらっしゃい!

 帰ってきたら祝賀会の打ち合わせしましょうね!!」


「もう決定してるの!?」


 憂は笑顔で走り出した。


 受験生たちが行き交う駅前へ向かうその背中は、

 冬の朝の光を受け、

 誰よりも勇ましく輝いていた。

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