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沈黙のういザード  作者: サファイロス
4章 昇華のブリザード

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第10話 プレゼント探し②

 憂の視線は、ショーケースの奥のひとつに吸い寄せられた。


 心臓が、そっと跳ねる。

 それは派手ではないけれど、ひときわ上品に、深い色を宿して輝いていた。


「葉月姉……」


 震える声で、指先がゆっくりとその一点を示す。


「これ……

 これがいい……!」


 言葉は小さいのに、

 迷いは一つもなかった。


 胸の真ん中がじんと熱くなり、

 目の奥がきらりと濡れる。


「千秋に……

 ちゃんと“ありがとう”って言いたくて……

 ちゃんと“伝えたい”気持ちがあって……

 これなら……それができる気がする……!」


 絞り出すような声と一緒に、

 一粒だけ、涙が落ちた。


 葉月は驚かずに、ただそっと微笑む。

 憂の手を包み込むように、優しく握った。


「うん。

 憂ちゃんが選んだなら、それが正解」


 その一言が、

 これまで揺れていた心を確かに支えてくれた。


 ついに、憂はレジへ歩き出す。

 一歩、一歩。

 小さな足音が、決意の音をたてていた。


「す、すみません……

 この……これ、ください……!」


 店員は、ほっとするようなあたたかい笑みで応える。


「かしこまりました。

 プレゼント用でよろしいですか?」


「はい……!

 とても大切な人への……」


 店員の手元で、包装紙が丁寧に折られていく。


 深い森のような緑色のリボンが

 キュッと結ばれた瞬間――


(わたしの想いも……結べた)


 胸の奥まで、きゅっと締まっていく感覚がした。



 袋を受け取り、

 憂はしばらく動けなかった。


 それはただの小さな箱なのに、

 どうしてこんなにも重いのだろう。


(これで、やっと……

 “お返し”ができる)


 でも、

 ほんの小さな影が胸をかすめる。


(渡したら……

 それで、終わっちゃうのかな)


 手が、ぎゅっと震えた。

 足元に揺れる景色が、少し滲む。



 施設を出ると、

 冬空は透き通るような青だった。

 冷たい風まで、どこか心地よく感じた。


 憂は両手で袋を抱えながら歩く。


「ねえ、葉月姉……」


「ん?」


「なんかね……

 ちょっとだけ前向きになれた気がする」


 葉月は憂の横顔を見て、

 ふんわり笑った。


「そりゃそうよ。

 憂ちゃん、すっごい勇気出したんだよ?」


「勇気……かな」


「そう。

 だって、こんなに悩んで、泣いて、

 胸が苦しくなる相手なんて――

 そうそういないんだから」


 憂の肩が、小さく震えた。


「“好き”の反対は無関心。

 距離を置こうっていうのはね、

 “いなくなる”のとは違う」


 言葉の粒が、

 真っ直ぐ心に落ちる。


「離れたところで強くなる時間なの。

 憂も、千秋ちゃんもね」


「強く……」


「うん。

 このプレゼントは、

 その第一歩でしょ?」


 冬の光が、

 憂の頬にやわらかく触れた。


「……うん。渡す。絶対」


 小さな箱。

 けれど、その中身は――


 これまでの全部と、

 これからの未来が詰まっている。


 胸元のエメラルドにそっと触れ、

 憂は息を吸い込んだ。


(千秋さん……

 これ、ちゃんと渡すからね)


 冬の街を歩く二つの影は、

 少し前より長く――

 そして、少し前より力強かった。

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