第10話 プレゼント探し②
憂の視線は、ショーケースの奥のひとつに吸い寄せられた。
心臓が、そっと跳ねる。
それは派手ではないけれど、ひときわ上品に、深い色を宿して輝いていた。
「葉月姉……」
震える声で、指先がゆっくりとその一点を示す。
「これ……
これがいい……!」
言葉は小さいのに、
迷いは一つもなかった。
胸の真ん中がじんと熱くなり、
目の奥がきらりと濡れる。
「千秋に……
ちゃんと“ありがとう”って言いたくて……
ちゃんと“伝えたい”気持ちがあって……
これなら……それができる気がする……!」
絞り出すような声と一緒に、
一粒だけ、涙が落ちた。
葉月は驚かずに、ただそっと微笑む。
憂の手を包み込むように、優しく握った。
「うん。
憂ちゃんが選んだなら、それが正解」
その一言が、
これまで揺れていた心を確かに支えてくれた。
ついに、憂はレジへ歩き出す。
一歩、一歩。
小さな足音が、決意の音をたてていた。
「す、すみません……
この……これ、ください……!」
店員は、ほっとするようなあたたかい笑みで応える。
「かしこまりました。
プレゼント用でよろしいですか?」
「はい……!
とても大切な人への……」
店員の手元で、包装紙が丁寧に折られていく。
深い森のような緑色のリボンが
キュッと結ばれた瞬間――
(わたしの想いも……結べた)
胸の奥まで、きゅっと締まっていく感覚がした。
◇
袋を受け取り、
憂はしばらく動けなかった。
それはただの小さな箱なのに、
どうしてこんなにも重いのだろう。
(これで、やっと……
“お返し”ができる)
でも、
ほんの小さな影が胸をかすめる。
(渡したら……
それで、終わっちゃうのかな)
手が、ぎゅっと震えた。
足元に揺れる景色が、少し滲む。
◇
施設を出ると、
冬空は透き通るような青だった。
冷たい風まで、どこか心地よく感じた。
憂は両手で袋を抱えながら歩く。
「ねえ、葉月姉……」
「ん?」
「なんかね……
ちょっとだけ前向きになれた気がする」
葉月は憂の横顔を見て、
ふんわり笑った。
「そりゃそうよ。
憂ちゃん、すっごい勇気出したんだよ?」
「勇気……かな」
「そう。
だって、こんなに悩んで、泣いて、
胸が苦しくなる相手なんて――
そうそういないんだから」
憂の肩が、小さく震えた。
「“好き”の反対は無関心。
距離を置こうっていうのはね、
“いなくなる”のとは違う」
言葉の粒が、
真っ直ぐ心に落ちる。
「離れたところで強くなる時間なの。
憂も、千秋ちゃんもね」
「強く……」
「うん。
このプレゼントは、
その第一歩でしょ?」
冬の光が、
憂の頬にやわらかく触れた。
「……うん。渡す。絶対」
小さな箱。
けれど、その中身は――
これまでの全部と、
これからの未来が詰まっている。
胸元のエメラルドにそっと触れ、
憂は息を吸い込んだ。
(千秋さん……
これ、ちゃんと渡すからね)
冬の街を歩く二つの影は、
少し前より長く――
そして、少し前より力強かった。




