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沈黙のういザード  作者: サファイロス


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第13話 青いセダンと誓いの言葉

昼前の街を、一台の深い青色のセダンが滑るように走り抜ける。


丸目のヘッドライトに膨らんだフェンダー、武骨ながらも美しいシルエットを備えたスポーツセダン。

年式こそ古いが、低く響く独特のエンジン音が、確かな存在感を刻んでいた。


運転席に座るのは、千秋専属運転手でありハウスキーパーの石田 早苗(いしだ さなえ)

眼鏡の奥の鋭い眼差しは前方を見据え、無駄のない姿勢でハンドルを握る。

冷徹さを思わせる口元には隙がなく、隣に座る憂は自然と背筋を正した。


初めて会ったときには圧倒され、思わず身をすくめたほどだった。

しかし、会話を重ねるうちに、厳しさの奥に潜む誠実さや温かさを、少しずつ感じられるようになっていた。


昼下がりの陽光がフロントガラス越しに緑を映し、車内に柔らかな輝きを落とす。

石田の運転は静かで正確であり、車線変更ひとつにも無駄がなく、白い指先の動きは優雅ですらあった。


自然なやり取りの余韻に浸る中、石田は口を開いた。


「千秋お嬢様がお話しされておられました。憂様は帰国子女として培われた語学力が非常に優れており、ご家庭での教育だけでなく、実践の場でも十分通用すると。もしご本人がお望みなら、家庭教師としても大きな助けになると存じます」


「そ、そんな……人に教えるなんて、私には荷が重いと思います」

憂が小さく手を振ると、石田は静かに答えた。


「どなたでも、責任ある立場は最初は重く感じるものです。しかし――千秋様が選ばれたご友人に、私も大きな信頼を寄せております。憂様には、その信頼に応える力が必ずございます」


憂は少し安心して頷き、胸の奥で決意を固めた。

「……わかりました。千秋のために、私にできることを頑張ります」


石田は微笑み、小さく頷くと、憂が日々努力してきたことを知っているため、自然にドイツ語に切り替えた。


「Also, Miss Uyu, wie fanden Sie die Geburtstagsfeier? Hat es Ihnen gefallen?」

(それで、憂様。お誕生日会はいかがでしたか?楽しめましたか?)


憂は一瞬驚いたが、毎日積み重ねてきた努力を思い出し、ゆっくりと微笑む。


「Ja, sehr. Alle waren so freundlich, und die Torte war wunderschön. Ich werde diesen Moment nie vergessen.」

(はい、とても楽しかったです。みんなが親切で、ケーキも美しく、その瞬間を忘れません)


石田は満足げに小さく頷き、さらに少し難しい質問を重ねた。


「Verstehe. Aber sagen Sie mir, wenn Sie das unvergesslichste Gefühl dieses Abends mit nur einem Wort beschreiben müssten, welches Wort würden Sie wählen – und warum?」

(なるほど。それでは――その夜の“最も忘れがたい感情”を一つの単語で表すとしたら何ですか?理由も添えてください)


憂は少し目を見開いたが、落ち着きを取り戻すと答えた。


『Dankbarkeit. Weil ich die Freundlichkeit aller spürte und es mich daran erinnerte, dass ich niemals allein bin.』

(『感謝』です。みんなの優しさに包まれて、“一人じゃない”と実感できたからです)


石田は眼鏡の奥に驚きを浮かべた。


「……見事なお答えです。ここまで的確に返されるとは。――Good. 千秋様がご評価されたのも当然にございますね」


憂は軽く頷き、胸の奥に小さな決意を抱える。


石田は微笑み、小さく頷いた後、ふと思い出したように付け加えた。

「今の努力は、きっと今後の役に立ちますよ」


憂は軽く頷き、胸の奥に小さな決意を抱えながら邸宅の玄関へと歩み出す。


車を降りた憂を見守りながら、石田は紙袋を恭しく差し出した。


「本日はお誕生日おめでとうございます。ささやかではございますが……お受け取りくださいませ」


憂は軽く頭を下げ、嬉しそうに紙袋を受け取った。

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