第29話 三姉妹のフレジエ
外へ出ると、
六地蔵家の広い庭には、うっすらと雪が降り始めていた。
珍しい、細かな雪。
憂と葉月は、しばらく黙って空を見上げていた。
「……ねえ」
「ん?」
「これ、絶対……雪姉の仕業だよね」
「うん。
“まだ見てるからねー”って、言ってるみたい」
二人は顔を見合わせて、小さく笑った。
六地蔵家の明かりはまだ暖かく灯り、
そこから聞こえる笑い声やピアノの音は――
雪乃が残した未来そのものだった。
御陵家の帰宅は、深夜を回っていた。
玄関の照明が暖かく灯り、
小さなクリスマスツリーが淡く光っている。
「まだ終わってないよ。クリスマスは、帰るまでがイベントだからね!」
葉月が得意げにキッチンへ消えていった。
憂は苦笑しながら後を追い――そして目を疑った。
「……これ、作ったの?」
「もちろん!葉月特製!
六地蔵家でフルコース食べても別腹は存在しますっ!」
「……すごい理論きた」
テーブルの上には幸せが積み上がっていた。
艶やかな苺とカスタードの間にスポンジ。
そしてその上には――
砂糖細工の三姉妹キャラクター。
一番手前、笑顔で両手を広げる憂キャラ。
その隣には、胸を張った葉月キャラ。
奥には――少し大人びた微笑みの“未来の雪乃”キャラ。
「三姉妹フレジエ、でしょ?」
葉月は照れながら胸を張る。
「雪姉ちゃんも、ずっと一緒だよ」
憂の胸がじんと熱くなる。
「葉月姉……ありがとう」
「さ、冷める前に!いただきまーす!」
「ケーキって冷める食べ物だっけ!?」
「まずは、これ!」と葉月はスプーンを差し出す。
憂は恐る恐る、自分キャラをパクリ。
「……おいしい!!」
「でしょ?でしょ?あたし天才!」
「調子乗った!」
続いて葉月キャラへ。
「これが……姉の味……!」
「頼れるお姉ちゃんな味がするでしょ!」
「ジャンル曖昧!」
そして――未来の雪乃キャラを
憂は両手で包むようにして持ち上げた。
そっと口に運ぶ。
(雪姉……ずっと見ててくれるんだよね)
「……おいしい。雪姉の味がする」
少しだけ涙ぐんで、でも笑って。
そして――唐突に訪れる抱擁の嵐。
「憂が……ちゃんと笑ってる。
……それが、一番のごちそうだよ」
「……葉月姉」
葉月はそのまま、
憂の頭をむぎゅっと抱き寄せた。
「よしよし。
今日は甘え放題でいいよ。
お姉ちゃんが全部受け止めるから!」
「ちょっ、近い近い近い!抱きしめ方強いっ!」
「だって可愛いんだもーん!!」
「ぐぇーっ!!
や、やめて……お姉ちゃん、息……苦しい……!」
ぎゅーーーーっ。
「はぁ……生き返った……」
「大好きだぞ~~憂~~!」
「分かったから離れてっ!?
首!首しまってるから!!」
必死の訴えもむなしく、
葉月はさらにぎゅっと抱きしめ続ける。
「いやだ。今日は妹分補給!」
「補給とか言うなぁぁぁ!!」
でも、憂の表情は……とても嬉しそうだった。
二人でソファへ座り、
ケーキをつつきながら静かに語り合う。
「雪姉、ほんとすごいね」
「うん。ちゃんと最後まで“お姉ちゃん”だった」
憂は胸のペンダントをそっと握る。
光らないけど――温かい。
「これからは、わたしたちが
雪姉の未来をつくらなきゃだよね」
「その通り!」
葉月は憂の頭を優しくぽんと叩く。
「でもまず、今は食べよ!おかわり準備するから!」
「もう!?まだ一口しか休んでないよ!?」
「憂は大食いだから大丈夫!」
「言い方ぁぁぁ!!」
窓の外、
雪粒が街灯に当たって一瞬だけ光る。
(雪姉……
わたしたち、ちゃんと笑えてるよ)
三姉妹の夜は、
甘くて、騒がしくて、
泣き笑いしながら更けていく。
未来へ繋がる――
温かい音が、まだ止まらなかった。




