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沈黙のういザード  作者: サファイロス
4章 昇華のブリザード

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12話 逆さまのラッパが示した道

 制服のまま椅子に座り込んだ千秋は、机の上に置かれた便箋をじっと見つめていた。


(お姉様が……わたくしに託すと……)


 胸の奥が、期待と不安でざわつき続ける。


 ――プルルル。


 スマホが震えた。

 表示された名前は、


 お母様


 千秋は慌てて背筋を伸ばし、通話を取る。


「もしもし……お母様?」


『千秋。声が少し震えているわね』


「そ、そんなことありませんわ……!」


『ふふ、誤魔化せる相手ではないでしょう?』


 図星だった。

 便箋へ落ちる視線に、菊子はすぐ察した。


「……雪乃さんから、お手紙をいただきましたの」


『やはり。その時が来たのね』


「……というと?」


 幼いころ――

 菊子が時々してくれた占いを思い出す。

 タロットカードを広げて、

 未来がどうとか、恋がどうとか。

 あの頃は全部、

 “お母様の可愛い趣味”だと信じていた。


『千秋』


 母の声が一段低くなる。


『ⅩⅩ ― 審判(逆位置)』


 千秋は息を呑んだ。

 あの時、意味を教えてもらえなかったカード。


「……あれは、良くない未来を示すものでは?」


『いいえ。甘えてはいけませんよ』


 菊子はきっぱりと言い切った。


『あのカードが示したのは

 “再生しない未来”ではなく

 “中途半端では終われない未来”です』


「……中途半端では」


『逃げれば終わる。掴めば守れる。

 どちらを選ぶかは、あなた次第』


 厳しい。

 けれど、揺るぎない信頼を滲ませる母の声。


『失うのが怖いのなら、なおさら掴みなさい。』


「でも……わたくしに……」


『できます』


 瞬間、絶対の強さ。


『あなたは六地蔵千秋。

 選ばれる側ではなく、選ぶ側 の人間です』


 胸の中心を、強く押された気がした。


『雪乃さんの願いも、あなた自身の願いも、あなたの音で叶えなさい』


 千秋は握る指先に力を込めた。


「……守ってみせますわ」


『ええ。必ずよ』


 言葉とともに、迷いが一つ、ほどけ落ちる。


『ところで千秋?』


 母の声色が変わる。

 どこか艶っぽい余裕を帯びて。


『クリスマスパーティ――わたくしも日本に戻りますわ』


「……ほ、ほんとうに!?」


 瞬間、声のトーンが跳ねる。


『もちろん、旦那様もご一緒に』


「お……お父様もっ!?」


『ええ。久々に旦那様と寄り添って過ごせるもの今から楽しみで』


 菊子の声が妙に甘い。


「お母様、その……過度なスキンシップはお控えくださいまし!

 子供の前なんですもの!!」


『腕を組むくらい普通ではなくて?』


「普通ではありませんわぁぁぁっ! わたくしが困りますの!!」


『ではハグは?』


「もっと困りますわぁぁぁ!!」


『なら……キスも?』


「論外ですわぁぁぁっ!!! それを人前でするのは――」


 その時、千秋の脳裏に、昔のとある光景が再生される。


──────────────────────


「ただいま、菊子」


「お帰りなさいませ、あなた……」


 言葉が終わる前に

 父は母の腰を引き寄せ――


 長い、息の合ったキスを交わし始めた。


(なっ……長っ……!?娘、真横におりますのよ!?)


 千秋の抗議は虚しく、二人だけの時間はゆったりと続く。


(だめですわ……見ていられませんわ……

 でも視界から消えてくれませんわ……!)


 顔を覆いながら、しっかり指の隙間から覗く娘。


──────────────────────


(きゃあああああ!! 思い出したくありませんわぁぁぁ!!!)


 千秋は耳まで真っ赤にして叫んだ。


「恋人同士みたいなこと

 子供の前でしないでくださいませぇぇぇ!!!」


『夫婦よ、わたしたち?』


「余計たちが悪いですわぁぁぁっ!!」


『ふふ、千秋も好きな殿方と――』


「し、しませんわっ!! そ、そんな殿方いませんものっ!!」


『素直じゃないところ、旦那様譲りね』


「も、もう切りますっ! お母様、良い夜を!!!」


『はいはい。千秋、貴女ならできるわ』


「ええ。必ず」


 通話が切れた。


 千秋は便箋へ視線を戻し、そっと胸の前に抱きしめる。


「お姉様――あなたの願い、必ず叶えてみせますわ」


 その瞳に迷いはなかった。


 憂と雪乃と共に、未来へ音を繋ぐために。

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