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沈黙のういザード  作者: サファイロス
4章 昇華のブリザード

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8話 御陵家の掟・第五条『姉は憂の心の隙間に自動割り込みすること』

 鍋を食べ終わり、部屋の灯りを落とす。

 葉月のベッドに並んで潜り込むと、冷たいシーツがすぐに体温を奪っていった。


 明日を呼ぶ夜の静けさが、ゆっくりと部屋を満たしていく。


「……ねぇ、葉月姉」


「なぁに?」


「今日は、一緒に寝てもいい?」


 憂は少し照れたように、けれど迷いなく尋ねた。


 葉月は、とろけるような笑みを浮かべた。


「もちろん。そんなの、いつだって歓迎だよ」


 布団の中でそっと手を繋ぐ。

 その温もりが、じんわりと心に沁みる。


 しばらく静かな時間が流れたあと、憂がぽつりと声を落とす。


「……受験、こわいなって思うことあるけど……葉月姉がそばにいてくれるなら、大丈夫かも」


「大丈夫だよ」


 葉月は迷いなく言った。


「憂ちゃんは強い。でも、強い人ほど、ひとりで頑張りすぎるから。

 背負いきれなくなったら、すぐ言うんだよ? ちゃんと、お姉ちゃんがいるんだから」


 その声は、暗闇の中でいちばんやさしい。


 少し安心したように憂は息を吐き、

 まぶたがゆっくり重くなっていく。


 意識がぼやけ始めた頃――


「……ゆき、の……」


 小さな寝言とともに、一筋の涙がこぼれた。


 その涙に気づいた瞬間、葉月の胸がぎゅっと痛んだ。


(憂ちゃん……やっぱり雪姉ちゃんのこと、まだ苦しいんだね)


 迷いなく、憂の頭を胸元へ引き寄せる。


 そっと髪を撫でながら、叶わぬ願いを抱きしめるように。


「――ねぇ、憂ちゃん」


 眠っている憂には届かないかもしれない。

 けれど、それでも言う。


「御陵家の掟・第五条」


 囁く声は、優しさより少し強い。


『姉は憂の心の隙間に自動割り込みすること』


「だからね、泣きたい時は、泣きたいだけ泣いていい。

 寂しさを隠さなくていい。お姉ちゃんが、勝手に入り込むから」


 憂は眠ったまま、ぎゅっと葉月の手を握り返した。

 まるで、言葉の代わりに頼っているように。


 その小さな願いを受け止めながら、葉月はそっと目を閉じた。


「雪姉ちゃんのこと、忘れなくていいよ。……だって大切な人だもん」


 優しい祈りを乗せて、その言葉を暗闇へ溶かしていく。


「おやすみ。憂ちゃんの明日が、ちゃんと笑えますように」


 離さない手。

 寄り添う呼吸。


 ひとつ、またひとつ、冬の夜が静かに更けていった。


 窓の外の星が瞬くより先に、二人は温かな夢へ落ちていく。


 暗闇の中で重なる寝息だけが、そっと、夜を照らしていた。

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