表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/53

華出井 葵(12)と願いの井戸 23

 甚八と京護の二人は、座ったまま葵が持っている物を改めて覗き込む。

「これ、見た目はおもちゃだけどね、本当はそうじゃないんだよ」

「うん。それは分かるけど」

「おもちゃというより、この細工は工芸品に見えます」

 甚八は最初、エルノー・ルービックが考案した立体パズルだと思った。葵がこれを動かした時の動作も同じ。

 7x7の面の色を合わせるために、回していく。

 違うのは、内部から淡く光っている事もあり、ステンドグラスのようだという事。

 そして、回している間に音が無かった事。

 葵がパズルを止めた時の柄は、スマイルマーク。その反対側は二重の四角と、それに閉じ込められたようにある、中央の黒が1マス。

 二人共が首を傾げる中、影は崩れたスライム状からハエを掴まえるカエルの舌のように、京護の足元からパズルを狙った。

「あ」

「ざーんねーん」

 驚いた京護より先に反応した葵が、体ごと引いてパズルを守った。


【みせろ ミタイ みせろ ミセロ よこせ】


「いくら攻撃無効でも、おっさんだもん。やだね」

 葵は勝利宣言として、舌を出してあっかんべをした。

「おっさん、行動範囲が狭そうじゃん。ぼくにバレていいの?」


【ミタイ】


 影の即答に、甚八が渇いた笑いをする。

「気にしてないんですね」

 葵の煽りを気にせず、目の前の欲を優先するのは嘘には見えない。葵も否定しなかった。

「おっさん、楽しい事が優先だから」

「ごめん葵君。範囲が狭いなら、距離を取るよ」


「ぼくは負けないから大丈夫。京護はそのまま甚八と観客席にいて」

 ソファは観客席で確定されていたので、大人しく京護は座り直した。

 足元の影を睨むが、当の影はパズルだけを見ている。

 まばたきするたびに目の数が増えたり減ったりをしているので、余程気になるのだけは伝わった。

 葵はわざとらしく咳を一つする。

 京護のために、影から少し距離を取って立つ。

「気を取り直して。この中に入ってるのは、井戸に落ちた先にあるものだけど、京護は見てないんだよね」

「うん…………落とされた先の事は、ちゃんと覚えてないんだ。ごめ」「謝るのナシ!」「はい!」

 両腕でバツをする葵の勢いが強く、京護は反射で返していた。

 同意する甚八は、影だけを注視する。影はパズルの動く方向だけを、追うように見ていた。

「甚八は? この中の見たことあるの」

「え、あ、申し訳ありません! 見たことはないですっ」

 不意打ちで葵に話しかけれ、慌てて答えた。

 まるで先の京護のように、肩をびくつかせてしまう。

 答えが返ってきたので、葵は更に尋ねた。

「ソレと合体させた、こういうのは?」

 甚八は、工芸品にしか見えないパズルを、眉根を潜めて眺める。

「…………言われなければ分からないので、恐らく見落としております」

 葵にとってそれは、少し意外な返しだった。

「分家って、色々知ってるもんだと思ってた」

 嫌味ではないのを感じ取り、甚八は苦笑した。

「曲がりなりにも父は円花家当主であり、僕は継ぐ気の無かった放蕩息子ですので。

 言えない事もあるかと」

「ほーとー息子?」

「自分の好きに生きてきたんです」

 京護はその説明が、少し不思議だった。

 自分本位な人間なら、昨日のような事は起きていない。

 京護とは基準が違うのか、何かあったのか。

 考えても分からないなりに考える京護とは別に、葵はあっさりと手放し、話を続けている。

「ぼくはそういうしきたり? 的なの興味ないからなんでもいいや。

 じゃあ、知らないと危ないね」

 葵はパズルを、自分の頭の上に乗せるように上げた。

「リーダーとして、甚八は見ることも触ろうとするのも禁止。元の方も、こういう形になってるのもね」

 甚八が、自分だけなのかと怪訝な顔をした。

「今、見てますよ」

「これはぼくのだから、見るだけなら平気。ぼくのでも使うの禁止。

 甚八が願いを持たない人間なら、見ても使っても大丈夫かもね」

 前半と後半で、葵の言い方が変わった。

 禁止事項は軽く。後半の意味深なセリフは、挑発的だった。

 益々、甚八は眉根を潜めた。

 もはや今更な流れだが、異議の為に挙手をする。

「失礼ながら、欲の無い人間など存在しないと思います。お腹が空いた何食べようなども欲でしょう」

「ぼくもそう思う」

 葵はうんうんと満足げに頷いた。

 京護は内心で、先生またお腹空いてるんだ、と思った。

 影は、やはりパズルだけを見ていた。元々瞬きは不要なので、凝視している。

 葵は上げていたパズルを、自分の目の横まで下げた。

「井戸に落ちた先の物って、それだけでも使えるけど、こっちと相性悪くってさ」

 目の横にあったパズルを、反対の手で覆うようにして持つ。そして目の前に移動する際、両手で包む形だったパズルの上下を、手ごとひっくり返した。

 フライパンの中身を皿に移すような仕草で、ひっくり返った事で上になった片手を、パズルから離す。

「こっちの物と混ぜちゃう事で、使えるようになってる」

 二人からは、二重四角の柄な為、上下が変わっても同じだった。

 葵は手の平に乗せているパズルを見て、初めて困ったような顔をした。

「コレ。ぼくは違うからうまく言えないんだけど、面倒くさい物なの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ