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華出井 葵(12)と願いの井戸 22


「続きは言うけど、ぼくのギャラリーは京護と甚八であって、おっさんじゃないから。

 二人はここまでOK?」

「はい。概ねOKですが、行動範囲の制限というのは、単独行動の事ですか」

 甚八は発言者として手を挙げ、当事者がいる横にるのをチラ見しながら尋ねる。

 見たのは主に、心情を落ち着させようとしている京護の、足元にいる影だ。

 相変わらず、崩れたスライムの形をしている。

「甚八くん、良い質問だね」

「恐縮です」

「単独行動スキルは無い。これは後に言うコレとも同じ理由なので、その時言うね」

 葵が手に持っているパズルを指さして返す。そのまま続けて、追加で答えた。

「あとは病院でもやっていたサーチ範囲だけど、これ多分おっさんもどこまで出来るか分かってないんじゃない」

 話を振られた影は、しばらく沈黙した後、スライム状から子供ほどの細い腕を生やす。

 そして五本指を象り、親指だけを立てた。

 影のサムズアップに、甚八は頬が引きつり、葵は満足気に頷き、感極まっていた京護は現実に戻ってきた。

 質問した手前、甚八が確認する。

「陽気な感じなのが気味悪いのですが、合っているということですか」

「合ってる。そんなおっさんが、ひいおばあ様の家で一緒に住むなんて、無理ゲー確定だよね」

 葵が京護の足元にあるスライム状の影を、蹴とばす仕草をする。影中に複数の目を開け、楽し気に葵の足を避けた。

 京護は葵と影のやり取りを見て、遠慮がちに手を挙げた。

「葵君…………駄目ならおれは良いよ。お父さん、迷惑しかかけないだろうし」

「京護」

「は、はいっ」

 葵が前かがみになる事で、ただでさえ近い距離が、益々近くなる。

 ほぼ真正面で、葵が眉を釣りあげ、京護にジト目をしている。

「京護はぼくと一緒に住むの嫌なの?」

「まさか。違うよ」

「じゃあ住みたい?」

「す、みたくないわけじゃないけど」

「住みたいの? 住みたくないの? ぼくずっと楽しみにしてたって言った。京護は楽しみにしてくれないの?」

 わざわざ下から見上げる形で尋ねる葵に、京護は葛藤で喉を詰まらせる。

 葵の凝視に、本音を見透かされた気分になった京護は、紆余曲折の末に白状する。

「…………住みたいし楽しそうだよ」

「絶対楽しいよっ」

 そんな二人を、甚八は横で、ごり押しの恐ろしさを生暖かい眼差しで眺めていた。

 京護が遠慮しているのが分かるので、ごり押しでも良いかと見守る。

 好意を躊躇う京護には、今後は素直に受け取る様になって欲しいと思っている。 

 合意の仕切り直しが出来た葵は、満足気に京護から1歩離れた。

 近すぎと感じていた京護は、内心でホッとする。

 葵は手元の立体パズルを持つ手を、ひらりと舞うように演出して掲げた。

「そう! おっさんが無理ゲー確定でも関係ない。ぼくが京護と一緒に住みたくて先手を取ってやったのがコレ、対おっさん秘密装置。

 名付けて『おっさんおさえーる』」

 優美な葵の仕草と、ステンドグラスとも見紛う物体とは真逆の名称に、二人は思えた。

 甚八と京護は意味を考え込んでしまい、妙な沈黙が流れた。

 影は是非の基準が無いので、大きな反応はない。

 最初に沈黙を破ったのは、笑いを堪えるあまり引きつった甚八の、震える声だった。

「名称がちょっと…………すみません、ドラッグストアに売ってそうとか思ってしまい…………」

 二人から背を向けているが、その背が震えている。

「先生、笑ってる」

「駄目? ぼくしか使わないから名前なんていらないけど、二人に分かりやすいようにしたのに」

「うん。それは伝わった」

「十二分に」

 分かりやすいよと言えば、葵はあっさりと満足した。

「今は、おっさんはこの家の中だけなら、見る事しか出来ない。直接攻撃も精神攻撃も無効。

 病院と同じっていうのは、そういう事」

 無効化された影は、崩れたスライム状のまま揺れた。


【ミレル みる ミテモ いい】


「見るなって意味だよおっさん。だから、ぼくは全部無効化にしたんだよ。

 だけどいきなりは、制限かけすぎちゃった」

 葵は先まで上げた眉を、へにゃりと下げて京護を見る。

「ごめん京護」

 感情が素直な葵に、京護は慌てて首を振った。

「ううん。おれも住むためにがんばるよ。でも、こんな事出来るの、すごいよ葵君」

「でしょっ スゴイでしょぼくっ」

 それでね、と。満面の笑顔になった葵が二人の間に立ち、立体パズルを改めて見せる。

「京護とおっさんの願いを叶えたものと同じ物が、ここにも入ってる」

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