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華出井 葵(12)と願いの井戸 20

主人公が性的を含む過去の虐待においてフラッシュバックする描写が、数行あります。物語としてはフラグを立てておりますが、読まなくても支障はないようにしたつもりです。

読まない、読む選択のためにこれからも注意事項を載せていきます。

 京護の肩の力が抜けた空気を察したのか、甚八がベッドを叩いて京護を見上げた。

「連君は倒れたんだし、座らないと」

 京護は条件反射で、ベッドから逃げるように半歩下がった。

「い、いいよ。おれは立っておく」

 本家で受けた過去を振り払うように、視線をそらせる。

 信頼を、向けたいと思った人から逃げる罪悪感よりも、シチュエーションの嫌悪が勝った。

 京護の変化に、葵が甚八と京護を交互に見てから、葵が京護の前に立つ。

「よく分からないけど甚八が悪い」

「それは」

 焦って言い訳をしようと甚八が立ち上がり、ベッドを肩ごしに見下ろしてから気づいた。

 京護が病院に運び込まれた時、処置をしたのは甚八だ。彼は、虐待を受けている。

 落ち度を言われても仕方がない。

「…………その通りです」

「違うよ葵君。先生は悪くない」

「いや、これは配慮の問題なんだ」

 お互いにどう返せば良いか考えていると、葵の背後にいる京護の足元に居た影に、動きが見えた。

 先までは、一般的な人間の腕が一本だった。

 今は、その腕が一本のまま巨大化した。広げた手の平は大小の目で埋まっており、その手で京護を掴もうと広げた。

「お、父さん?」


【ねがえ】


「…………何を」


 手の平の中に入った京護に、親指だけに口を浮かばせた影が、笑う。


【ムスコ のぞみ ワシ きる】


 残りの4本の指で、ゆっくりと京護を背後から閉じ込めようと動く。

「おれは、もう誰も切りたくない」


【ウソ うそ ウソ うそ ウソ うそ ウソ】


「嘘はお父さんだろっ」

「連君っ」

 籠を閉じるように少年が闇に捕まっていくのを、甚八は見ているだけになっていた。

 一方で、すぐ傍に居た葵は、京護の足元の影を思い切り片足で踏みつける。

「おっさんジャマなんだよっ」

 家の床板を踏み込んだだけだが、影の動きは止まった。

「あ、葵君?」

「後でって言ったの、もう忘れたのおっさん。

 京護の事であんたの出番はないし、ここは僕の舞台だ降りろ」

 ぐりぐりと、踏みつぶすような事までした。

 意味はあるのかと、思わず甚八は巨大化した影を見る。

 動きが止まったのが葵のおかげなのか、影の意思なのか、皆目見当もつかない。

「はあ? ぼくが簡単に手の内見せるかって。

 あと、おどしたって京護を使う事は出来ないの、おっさんが一番知ってんでしょ。

 脳なくたって学習出来てたから、おっさんこんなんなってんじゃないのかよ」

 分かるのは、葵が躊躇いなく口が悪いこと。

 思わず、京護の教育に良くないなと思ってしまった。

 余程、虎の尾を踏んだらしい。

 そして、影が喋りだしたのか、風を切る音がしだした。

 チラリと台風の中心にいる京護を見たら、明らかに困っている。

 私の為に争わないでという三角関係な構図だなと、不憫に思って声をかける。

「連君」

「せ、先生」

 どうしようって顔された。甚八は、僕もどうしようって言いたかったのに。

 仕方がないので、備え付けのソファに二人で向かった。

 影は京護の足元と繋がっているが、葵から動かない。

「終わるまで休憩しよう。ソファならどう?」

「…………いいよ」

 病院よりは少し狭いソファに、端と端で座る。

 謝ることは、互いにやめる事にした。

 ぎこちないなりに視線が合うことに、甚八が胸を撫でおろす。

 すると、先まで言い合いしていた葵がこちらに近づいてくる。

「なんっで甚八がそっち側にいるの」

「終わるまで待とうという事になりました」

「始める気も無かったのにっ」

 子供の足音なりに、ドカドカと荒い音で到着した。甚八は立ち上がり、ソファの前にあったローテーブルを退かせた。

「まあまあ。葵様、こちらの舞台で話を戻しませんか」

 ソファの前に出来たスペースは、葵が立っただけで、小さな独演会場に見えた。

「んもう。じゃあ、話を戻すよ。おっさんも、そっち」

 葵が指さしたのは、ソファ側。

 影は元の一般的なサイズの腕もなく、動く沼のように液体が這っていた。

「なんで拗ねてるの、お父さん」

「ぼくが天才だから」

「天才は認めますが、答えにはなっていませんよ」

 甚八の苦笑い混じりの肯定に、葵がニタリと悪い笑顔で答えた。

「ぼくが言った通りの制限を食らってるのが本当だったのを、さっき知ったから」

 甚八は、やっぱりコレ子供みたいだなと思ったが、黙っておいた。

「葵様の言う通り、したいようにする事が、出来なくなったんですね」

 そんな話から始まっていた事を、甚八だけでなく京護も思い出した。

次回更新は同日。設定済。3/5(木)23:00。

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