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華出井 葵(12)と願いの井戸 19

 隠し部屋から出てゲストルームまでは、すぐだった。

 影は隠れず、京護の足元から現われているままだ。形は気に入ったのか、挙手をした形を保っている。その影に、四方八方に開かせている目で、家の様子を観察していた。

 ドアノブを握った葵が、ドアを開ける前に甚八を見上げる。

「ゲストルームは、ひいおばあ様が客を呼ぶなら使いなさいって言ったの。

 そのまま甚八の部屋にして良いか、ひいおばあ様に聞いておくね」

 甚八は、予想外の提案に目を丸くさせる。

「僕は住みませんよ。自分の家があります」

「何言ってんの、許可されないよ。

 でも部屋ぐらいはくれるんじゃない。なんてったって甚八は、ぼくと京護の主治医でパーティーメンバーなんだから」

 そうしてドアを開けると、建物の見た目より近代的なシングル用の洋室だった。

 ダブルベッド、サイドテーブル、長ソファとローテーブル。テレビと、簡易ながら冷蔵庫もあった。

「ちょっとしたビジネスホテル並みに、揃ってますね」

「風呂場とトイレと洗面所そこ。ゲスト用だから、ここだけで大体あるってさ」

 乗り気ではなかった甚八が、真っ先にベッドの長い方の端に座る。スプリングの返しを手で確かめ、シーツの触り心地に頬を緩めた。

「良いですね」

「気にいってんじゃん」

「先生、分かりやすい」

「寝心地も良さそうです」

 二人は、甚八の目の下の、くまを思わず見た。

「甚八、寝ちゃえば。そろそろ顔面崩壊しそう」

「先生は寝た方が良いよ」

「大丈夫です。気になることもありますので」

 大丈夫かなと、京護が首をひねる。

 葵は、甚八の視線の先を追った。

「これ?」

 ベッドに座っている甚八が、葵がポケットから出した物に視線を注がせる。

 見た目の材質と風合いは、ステンドグラスに似ていた。

 最初に見た時より、内側から放つ光は弱そうに見える。

「まず、ソレの意味と、ソレによるコレの関係を教えてください」

「アレコレソレのどれでヤバい。じゃあココから」

 葵は、二人に見えるようにパズルを両手で持ち、前に出す。少し持ち上げ、パズルと視線の高さを揃える。

「ぼくは思った」

 葵の眼球には、パズルの光りが映り込んでいた。

 その目が、ある一点を見下ろす。

 つまり、京護の足元にいる影だ。

「ここで京護と暮らすにはアレがじゃまだ。そう、おっさん。お前だっ」

 最後は、パズルを片手持ちにした葵が、空いた左手で影を指さした。

 ビシッという音が聞こえそうな腕の張り具合に、今度は、ミステリー作品の真似かと推察した。

 同時に、葵の指摘には大いに納得する。

「確かに。むしろこの家に来るまで大人しかったのが不気味です」

「それはぼくがおっさんに、大人しくしたら後で良い事教えてあげるって言ったから。

 はいはい、ちゃんと後で教えてあげるよ」

 子供みたいだなと思ったが、黙っておいた。

 葵は影を指した指を立てる。まずは人差し指を1本。

「おっさん対策がここで住む条件なのは、色々理由があってね。

 まず、ひいおばあ様は、華出井のほとんどを知らない。井戸の事も全然知らない。

 死んだひいおじい様の決めごとだから、ずっと知らないままなの」

 葵の説明に、一つ目から甚八が戸惑う。

「え、そんな人、本家で存在するのですか」

「甚八くーん。発言は許可していないよ」

「申し訳ございません」

「よろしい」

 いわゆるお家事情がサッパリな京護は、二人のやり取りを眺めるだけだ。

 内容にピンとは来ないが、井戸のくだりだけは、京護もひそりと戸惑っていた。

 アレを知らない、本家の人がいる。

 そんな当事者の1人である京護に、葵が目を向けた。 

「続けるけど、京護大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」

「じゃあ続ける。一方、おっさんは自分のしたいようにする、困ったおっさんだ」

 自分の父親を困った存在だと言われ、京護は思わず苦笑いをしてしまう。

 先の戸惑いは、葵の軽快な口調で落ち着いた。

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