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華出井 葵(12)と願いの井戸 13

 病室を出て、いくつかの扉がある廊下を3人で歩く。京護用に分けた荷物は、甚八が持っている。コンビニの袋に入れられたほとんどは、甚八が買ってきた食料だ。

 その中で京護が気になって目にとめた物は、甚八と葵が簡単に説明していく。

「それは静脈認証だよ。本家・分家の中でも、特定の関係者だけしか入れないところは、それがある」

「あ、そことここは、別の個室。甚八、一番いい部屋使うとか根性あるね」

「お褒め頂き恐悦至極。ええと、そこは研究施設だね」

「ほめてないよ。ここは艻月専用のとこ。病院のガードマンしてるから。

 同じところで働いてるけど、甚八て艻月と仲良いの?」

「仕事だけの関係です」

「大人って大変だ」

 葵のツッコミは基本、甚八に向かわれる。

 次々に説明を受けていた京護は、一度では覚えられない場所ばかりだった。

 誰とも会わず、人の気配も無い静かなままエレベーターホールにたどり着き、甚八がエレベーターのボタンを押す。

「病院の個室って、全部こんな感じなの?」

「まさか。病院最上階と地下の最下。それぞれのフロアの一部は、病院ではなく本家の方の、関係者専用なんだ」

 エレベーターが到着し、甚八は、葵と京護に先を譲った。

 甚八が説明したのを証明するように、階層のボタンは最上階と最下層、そして1階の3つしか無かった。

「華出井ばっか言うけど、病院自体が円花の名前じゃん。甚八がここで働いてたのって、あとつぎだから?」

 エレベーターの奥の壁側。鏡にもたれ掛かって問いかける葵に、甚八は、すぐには答えなかった。

 葵に探られているのが分かっている甚八は、少し困った顔で笑う。

「最初は、継ぐつもりは無かったのです。

 仕事なので苦労はありますが、やりがいはあります。向いていたようですね。ただ…………」

 京護には話の内容が分からないのに、甚八が京護を見ることで、当事者の一人になった気がした。

 甚八は視線を京護から、エレベーターの階層のランプを見上げる。

「外からでは、堀の先は見えませんので」

 直通は止まる階が無いので、着くのも早い。

 着いたフロアでも葵と京護を先に促す甚八に、葵が、すれ違いざま見上げた。

「わかるーっ 城攻めゲームって面白いよね」

 降りたはいいが行き先が分からず待っていた京護に、葵が横に並んで方向を指した。

 こっちだよと、少し前を歩く葵についていく。

 指した方向は、病院の出入口。

「葵様は攻める方がお好きですか」

「守り固める方がぼくは成功率高いんだよね。なにが駄目なんだろ」

 首を傾けながら、

「今度京護もやろうね。面白いよ、野望系」

 と葵が言うので、会話に入れということなのか。

 内容は掴めない京護は、最後のゲームのところだけ頷いた。

 自分が買ってもらったゲーム機とソフトは、もう戻らないだろうと、二人には分からない程度に寂しさを覚える。

「アクションなら持ってたな。楽しそう」

 独り言に近い口調でも、葵は気にせず喜んだ。

「うん、ぼくガンシューティングも好き」

 銃を持つ構えをする葵の指の先に、これから乗る車があった。

 型はステーションワゴン。

 既に駐車場から車を移動させていたので、葵はお辞儀をする運転手に構わず、後部座席に乗り込む。

 手招きする葵に誘導され、京護も躊躇いながら葵の隣に座った。

 甚八が動かなかったので、これは勘違いしていると葵は眉を潜める。

「なんで見送る気でいるの、甚八も来るんだよ。だから、荷物置きに行ったんじゃないの?」

「え」

 見送るつもりでしたが? と顔に乗せたので、葵の予想は当たっていた。

「僕、まだ仕事が残っているのですが」

「京護につきっきりになるんでしょ。後あと」

 バンバンと席をたたくが、座るとすれば助手席だろうと前を見る。

 既に運転手は座っていた。顔も素性も知らない分家の隣は緊張するなあと思いながら、まだ足掻きたい程度には仕事が残っている。 

「調整は致しましたけど、急には後に出来ないことだってあります。ありますので、白衣を引っ張らないでくださ、い、い、い」

 甚八が悩んでいる間に、車から降りた葵が甚八の白衣を掴み、ぱっと離す。

 あえて逆らうのだから、本当に忙しいか理由があるのだろう。

 仕方がない。

「しょうがないなあ。40秒で支度しな」

「そのアニメ見せたの、どなたですか」

「同じクラスの奴が滅びの呪文ごっこて遊んでたから、なにそれって聞いた日に家で見た」

 しょうがないと、支度が関連づいていないのを、ツッコミたい甚八だった。

「ほら早く。甚八もいなきゃ駄目なんだよ」

 だが結局、葵の子供らしからぬ自信を持った笑顔と、なにより本家の跡取りという肩書きに弱かった。

「受付の者に伝えてきます」

 40秒は無理だけど、と思いながら。

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