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華出井 葵(12)と願いの井戸 12

 甚八は最後に、冷凍庫を開ける。

「アイスだけは仕方がないな。これ、僕の職場の人に渡してもいいかな」

 聞かれた京護が、首をかしげる。

「なんで、おれに聞くの」

「連君にあげたアイスだから」

 さも当然という顔をされ、益々首を傾げた。

「アイスあるの? アイス食べるっ」

 甚八が言ったアイスだけに反応した葵が、ベッドから飛び降りて軽やかに近寄ってきた。

「アイスは連君のなので、連君に食べて良いか聞いてください」

「買ったのは先生だよ」

「あげたから連君のだ」

「どっちでも良いって。京護も食べよう。あ、これにしようよ」

 深めの冷凍庫のトレイに、ずらりとあるアイスを物色していたが、すぐに決めて取り出す。

「へへ。京護と半分こしたかったんだ」

 ボトルの形を模した容器が二つ、一つに繋がっているフローズンスムージーアイス。

 定番のチョココーヒーを開けて、あっという間に片方を京護に渡した。

 僅かにアイスが残っている、ヘタの部分は甚八に渡す。

「おすそわけ」

 甚八は苦笑いを浮かべて受け取った。ヘタを咥えながら、残りのアイスを紙袋に詰めていく。

 ビニール袋がないので、急いで運ぼうと全ての私物を持ち上げた。

「僕は残りのアイスと、これを職場に置いてくるよ」

 京護も蓋を開け、甚八の荷物を思わず眺めた。

「うん…………まだそんなに食べ物あったんだね」

 非常食がほとんどで、ノートパソコンを含めた仕事道具と、アイス。病室に置くには、多そうに見えた。

「これここに置いてた僕の私物なんだ。内緒に頼むよ」

「甚八の部屋になってんじゃん。住んでるの?」

「空いている時に有効活用していただけです。ここのソファは五徹の仮眠に最適でして」

「それ住んでるのと何が違うの。早く行って来なよ、僕ら食べて待ってるから」

 甚八は、とうに舐め終えたアイスのへたを捨て、慌てて病室から出て行った。

 既に食べ始めていた葵が、最後まで甚八に呆れてから、京護が開けたアイスのへたを見ているのに気づく。

「京護、そっち食べないの? そっちもおいしいよ」

「食べる」

 言われてから舐める。カップアイスの蓋を舐めていた時を思い出し、昨日のみぞれも美味しかったなと頬を緩めた。

「一緒に食べると、おいしいね」

 葵はアイスを咥え、ソファに走っていく。

「ソファ、そんなに良いのかな」

 空になったへたを捨て、本体をようやく食べた。

 甚八とは、同じテーブルを囲んで食事をした。

 そして葵とは、同じ物をシェアした。

 いつぶりかなと、アイスの冷たさが心を楽しくさせてくれる。

「うん、美味しい」

 京護がソファに着くと、葵がソファで寝転がって何度も寝返りを打っていた。

 アイスを咥えながらなので器用だなと、一人用ソファに座る。

「良いのかなあ。よく分かんないな」

 大きなソファでは余る、京護よりも一回り小柄な体がピタリと止まった。

「そうだ」

 起き上がった頃には、葵のアイスは半分もない。

 葵は、京護ではなく、部屋の明かりで出来る京護の背中の影を見た。

「おっさん。京護の影から出て来ちゃダメだよ。特に、家に着くまでね。ぼくの言う事聞いたら、良い事教えてあげる」

 葵の断固とした雰囲気に、京護が頷くか悩んでしまった。

 足元を見てみるが、反応はない。

 聞いていないことは、ないだろう。

 言う事を聞くかは、分からないだけだ。 

 その時、自分はどうすればこの影を止められるのだろうかと、食べ終わるまで考える。

 結局、明確な対策が出ないまま、甚八が戻ってきた。

「お待たせいたしました」

「今度こそ、しゅっぱーつ」

 葵はソファから立ち上がり、空容器を捨てて甚八の元へ走っていった。

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