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華出井 葵(12)と願いの井戸 7

 改めて京護は、甚八は似てないと思った。

 京護を実験体としか見ていなかった、甚八の父親とだ。

 顔立ち、話し方、表情。

 面影は見つけられず、医者という職業と苗字が同じ。

 円花家というくくりで見ていた摩擦は、甚八の人間らしさに触れるたびに摩耗されていく。

 京護は、間近でメソメソと眉毛を下げる甚八を見て、思わず笑ってしまった。

「先生て、へんな人だ」

 京護の肩に止まっていた、二対四羽のカラスの形をしていた影も、びっしりと埋めた目をくるりと一斉に口に変えて繰り返す。


【へん ヘン へんは オモシ ろい】


「コレに言われるのは不本意だな」

 直視はしたくないので、甚八は代わりに、影を観察する葵に視線を移す。

 葵は京護の腕を掴まえながら、前に横に後ろにと、せわしなく影を見る。

 攻撃されると思っていないのと、されても問題ないと思っているから出来る距離だ。

「器用にしゃべるよね。どうやって声出してるの」

 自分の指を葵は影に埋めようとしたが、質問に答えた風を切る音により、反射で手を引っ込めた。 

「おっさん最悪っ」

 傍にいた京護は、瞬間風速に似た叫び声を間傍で浴びてしまう。

 葵の声が残っている気がして耳を塞ぎたいが、葵が腕を掴んでいるので動かせない。

 そんな京護の耳より切実な心境でいる甚八は、京護に懇願の眼差しを向けた。

「連君、今の教えてくれないか」

 京護が最初に思ったのは、影も葵も甚八も、全員の距離が近い事だった。

 5年間の不遇による警戒心から、未だパーソナルスペースは狭くはない。

 ほんの数センチでも良いので全員離れて欲しいが、言い方が分からない。

 仕方なく、甚八の質問の意味を考える。

 影は、何と言って葵に返したか。

「ええと。お父さん、おれを使ってるから出来るって」

「どうやったかの方法は」

「い、言ってない」

 二度返してもらった事で、甚八は目の横に豆電球が光ったような顔をした。

「もしかして、連君の声帯に依存しているのか。…………自立できないのかな、形が無いからか、いやそれにしては物質的なものが…………」

 京護の背丈に合わせていた甚八は腰を戻し、ぶつぶつと独り言を零していく。

 物理的な距離はそのまま、意識だけが離れた甚八に京護が慌てて声をかける。

「先生、あの」

「あ、ごめん。話を戻すけど、その前にはコレ、何を言ってたの」

 今度は、京護の意識が飛んだ。

「その前って、どこから?」

 今日なのか、昨日なのか、井戸に落とされた日も含むなのか。

 もしかして、それよりも前を指しているのか。

 具体的な時期が分からない京護は困り、その表情で、甚八は途方に暮れた。

「いつからなんだい」

 犬なら、耳と尻尾が悲しく垂れている声だった。

 甚八は、自分が訪れたこの病室内での出来事を言っているが、焦るあまり伝えていない。

 互いに困惑する間が作られたが、そこに割って入る形で葵が手を上げた。

「はーい、甚八。ぼくとの事は、ぼくが教えてあげる」

 葵は京護から一歩だけ横に離れ、ハーフパンツから伸びた足を少し開く。

 両手は腰に当て、つま先だけ床をトントンと蹴る。

「教える前に、ぼくがここに入ってきた時の事なんだけど。

 おっさん、ぼくを攻撃したと同時に病院中を探ってたの」

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