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華出井 葵(12)と願いの井戸 5

更新がズレたので半日後も投稿します。2/7(土)4:00更新予約済。

 京護の右腕に出来た影から、枯れ枝のような細長い手が出る。

 手の大きさは赤ん坊ほどで、その1本目が京護の腕を掴む。影は次々と増え、京護の腕や手にしがみついていく。

 這い上がる仕草に見えた複数の影枝が、京護に乗ったままの葵を指さす。

 その時、窓が閉められている病室で、風の音がした。

 甚八は廊下からかと、半端に開いていた扉を見たが違っていた。視線の先には、葵の護衛でついて来た若い男女が倒れているので近寄った。

 生きている事だけを確認するや、あっさりと視線から外す。

 葵は甚八が気にした全てを気にせず、幾重の枯れ枝めいた影を、鼻であしらう気だった。それに割って入ったのは、京護だ。

「お父さん。おれの恩人に、そんな言い方しないでっ」

「京護、これただの負け惜しみだよ」

 葵の勝ち誇った顔を横に置いている甚八は、そんな言い方とは? と聞き返したくて仕方がなかった。

 今のやり取りで、会話が成立したようには見えないからだ。

 どういう意味か知りたかったのに、甚八が口にしたのは京護の有り様だった。

「その状態のままで怒るんだね、連君」

 脳と口が誤作動した。徹夜の疲労がそろそろ溜まっていると、自己分析する。

 横から指摘を受けた京護は、葵から視線を外して、目を閉じた。

「…………どいてと、言いにくくて…………」

「分かるよ」

 思考が鈍くなってきた甚八が、うんうんと頷く。

 影は葵を指さしたままで、葵は京護だけを見ている。

「京護、どいて欲しいの?」

 京護は、肯定にしかならない沈黙を選んだ。

 柔らかい頬が上がるほど口角を上げた葵を見て、甚八は心の中で合掌した。

「どいて欲しいなら、どけよ葵、て素っ気ない感じで言って欲しいなあ。ぼくたち友達でしょ」

 友達、の部分で、京護は口元をもごもごとさせ、葵を何度もチラ見する。

 葵はひとさし指を立て、指揮棒としてリズムよく宙に振った。

「はい、いっせーのっせ」

「…………どいて、欲しいです。葵様」

「様も敬語もいらないんだけど」

 指揮棒代わりの指は、まだ回っている。

 甚八だけが気にした光景として、影の指も葵の真似をして回していた。

「無理です。おれ、大人に怒られた事あるんです。あと葵様は恩人だから、葵様で良いかなて」

「だれが京護に怒ったのか後で聞くね。

 で、ぼくは、様、いらないんだけど」

「…………がんばります」

 空中で八の字を描いていた指が止まる。影も真似て止まった。

「じゃあ、どいてあげる。今度は様なしね」

「はい…………」

「はい、じゃなくってぇ」

「…………うん」

「んふふ」

 軽くなった京護は起き上がり、吐き気を抑えるようにして自身の腹を撫でた。

 影は京護の背後に移動する際、枯れ枝に見える数多の手を集合させ、一羽のカラスに変貌する。

 影のカラスは二対四枚の羽根を持ち、京護の肩に止まる。

 足は二本だが、どちらも根元から下の影は京護の背中を覆って、そのまま床に続いていた。

 京護も葵も影への警戒が無いので、甚八は影の事は気にしつつ、気が緩んだ笑いが出てしまった。

 内容はさておき、京護の自主性と、子供同士での会話を見られたからだ。

 そう、内容はさておきだ。

「連君に親近感湧いたな、僕」

 巻き込まれるにしても、最終的に引き寄せた存在の大きさに、甚八は畏怖と共に京護に同情した。

 葵は、華出井家の次期当主が確定している。要因の先には京護が絡んでいるが、当の少年はまだ知らない。

 葵が決めたタイミングで知らされるであろう京護は、曖昧な言い方の割に楽しそうな甚八に、眉を下げて見上げる。

 拗ねているのだ。

「先生だって葵様なのに」

「連君とは肩書きだけなら分家同士だしね。でも子供には関係ないと、僕は思いますよ。葵様」

 甚八は、立たせてあげようと京護に手を伸ばす。

 手の先にある甚八の顔を見てから、京護は、その手を握った。

「結局、葵様の味方なんだ」

「そこも含めての、親近感だよ」

「京護また、様って言ったぁっ」

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