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序章・連 京護(14)の転換日 27

気がかりかと問われ、頷く以外の選択はない。

「だって、お父さん相手で一人なんて聞いたら」

 前のめりになる京護を、甚八は自分の両手を前に出して落ち着かせる。

「大丈夫。葵様なら、ちゃんとお元気だよ」

 甚八の、あえて力強く肯定した答えに、素直にホッとする。この夜、初めて頬の血色がよくなった。

 良好な関係だったのだと分かり、甚八も密かに安堵した。

 で、あれば、言っておかないといけない事が甚八にはある。

 京護の肩に止まったままの、影フクロウは変わらず首を傾げている。どうせ聞こえているだろうから、甚八は、京護だけを見て続けた。

「お元気どころか、ついにその名前出したねって感じ」

 にっこりという擬音が似合う甚八の顔を、京護は無言で見る。

 言葉の意味が、一度では分からなかった。

「ついに?」

「来るよ」

「来る?」

 どうして、そんなにニッコリ笑顔なんだろうと思うものの、聞けない空気を甚八は背負っていた。

「名前、出しちゃったら最後。聞きつけてここへ来るから」

 京護は内心、甚八の言葉の使い方が、学校で聞く怪談みたいだと思った。

 記憶も思い出も遠くになった、かつて通っていた小学校。あそこの七不思議はなんだったっけ。

 思わず思考が飛んでしまう京護をよそに、甚八

は少しスッキリした顔になる。

 今夜の数時間だけで、甚八の眼下に居座るくまは徹夜5日目並みに厚くなった。それでも、一番の役目を果たした気分だ。

「まあまあ。明日になれば分かるよ、ああ、もう日にち超えたか」

 ポケットのスマホを取り出し、時刻を確認する。

 SMSに届いていた、本家宛てからの連絡にも目を通した。

 内容は簡素で簡潔。事務的さに感情が見えないから、返事もしやすい。

 連絡の中身は案の定、明日の朝には、葵が病院に来るとあった。

 甚八は部屋を見渡し、盗聴は機能していたらしいと悟る。

 当人ではなく、大人を介した報告だと良いと思いたいが、本家の倫理観に信用は無い。

 京護に対しての罪悪感はあるが、仕方がないと開き直る卑怯さも持っている。

 その分、惜しみなく手助けはしてやりたい。

 そういえば、京護にはしたい事があるんだったと、甚八は思い出す。

「連君」「先生」

 同時に声をかけてしまい、先に甚八が手の平を京護に向ける。

「あ、ごめん。先にどうぞ」

「ええと……じゃあ。葵様、本当に明日来るの?」

「ああ。ずっと連君に会いたがっていてね。

 今日の朝にでも会えるから、なんなら直接聞いてごらん。ソレをどうしたのかとか……あれ?」

 つい目を離した隙に、影は京護の足元に水たまりのように居た。フクロウの名残はなく、漆黒さもあり沼に見える。

 大きさは病室のベッドほど。

 その沼は時折ゆらめきに合わせて、水面に大きな口を開ける。

 意地は悪いが圧の薄い笑い声が、二人の耳に届く。沼の端では蓑を巻いたような腕が1本生え、水かきのある手の平を天井に向けている。

 二人から一番遠い手は、くるりと向いて、手の平に目玉を作った。

 その目玉が瞬きするように、こっちへ来いとばかりに手招きだした。

「……連君。今度は、心なしか機嫌が良くなってないかい」

「葵様が来るって知ってから、急に……」

 返事のつもりなのか、京護の足元で口を一つ増やして笑った。

 二人は思った。嫌な予感がする。

「……お父さん。絶対、葵様に手出さないで」

 京護の忠告に、水面一杯で口角を上げていた口を更に上げ、最後は腕も何もかも閉じた。

 二人は悟った。嫌な予感しかない。

「あれは……するんじゃないかな」

「どうしよう、おれも会いたいのに。どこか遠くへ行った方が良いかな。でも、お金も服もない。あの、先生」

「あげないし貸さないし、手助けもしない。

 やめた方が良い。葵様か、その代理が追いかけてくるだけだ。

 疲れているだろ、思考が飛んでる」

 人の事が言えない大人は、医者の顔を忘れないように自らの膝を叩く。

「もう遅い。連君は寝た方がいい」

 たった一夜と思えない出来事だったと、甚八は息を吐く。

「ベッドは綺麗なままだし、先に布団に入っていて良いよ。僕はここを片付けるから」

 テーブルの上でひっくり返っている物を見渡し、

重くなった足で立つ。

 だが、甚八から見て斜め後ろになった京護は、甚八の提案を断った。

「寝たくないから、ここに居とく」

「……子供は寝るのも仕事だよ」

「それ、昔お母さんが言ってた。でも、嫌なんだ」

 京護はソファに体重を預けて、天井を眺めてから目を閉じる。

「一人で暗い場所にいると、次はいつ誰がおれを寝ている間に運ぶのかって、怖くなる」

 首を少し片方の肩に寄せ、目は閉じたまま少し口角を上げる。

「でも葵様が来るなら、起きたまま待つのも悪くない」

 おやすみ先生。と言われた甚八は、迷う間もなく提案した。

「それじゃあ、一緒にワルイコトしよう」

告知

あと1回で序章が終わります。

序章後の本編は、キャラ絵らくがき付解説のインターバル投稿1/31(土)を経て、2/1(日)から始めます。

更新時間は現在の夜予定から、4時~5時予定に変わります。

よろしくお願いいたします。

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