序章・連 京護(14)の転換日 22
「ご当主様の愛刀は嘘か本当か、化け物退治で使われた妖刀と言われていたんだ。
眉唾物だったけど、話は変わった。こうして死んではないけどね」
間で押し黙っている影が、意味を理解しているか甚八には分からない。
ただ、多分、楽しげだ。
触れない方が良いと見ないフリをして、話を続ける。
「それとなく探ってみるよ。
なにか……期待はしてないけど、関連が出るかもしれない」
影がじっと見ている気がするが、今更かと、相対した数時間で悟る。
同じくじっと甚八を見ていた京護が、膝を折っている姿勢のまま、首を傾げた。
「探るって、本家に?」
「混乱している今が、むしろ探り時だよ。
自分を殺した故に、気に入って凶器を模造した。この情報一つだけでも相当に貴重な資料だ」
甚八は、今日も徹夜だなと、脳内でやる事リストを増やす。
「その情報や資料が欲しくて、本家も分家も数百年かけて研究していたんだ。
先も言っていた、コレが不死だとか有機物としての形成がないとか、人格なり感情を持たない存在であるとかもね。
それが本当かどうかも、また研究になる」
京護の目が細まり、唇を強張らせた。視線がそれたので、言い方が悪かったかもしれないと、自省する。
「連君」
名前を呼べば、顔を向けてくれた。
甚八にも、知らない事がある。
分家同士の繋がりは薄い。お互い、本家に気にいられたいから、情報を隠すのだ。そして、出すときは自慢げに見せびらかす。
甚八は、ためらいながらも京護に知らせる。
「知っていたかな。君のお母さんもね、分家の人なんだ」
「……え、分家て、あの、先生みたいな?」
京護のリアクションから知らなかったんだなと、一層、少年が気の毒になる。
「僕も自分の家以外の分家は、よく知らない。
分かっているのはね。連君は、大人の都合に巻き込まれただけって事だ」
頼りない背中をさすってやりたいが、出来ないし、しない方が良いと押しとどめる。
「僕は君のお母さんの顔を知らない。でも、噂だけは有名だったんだ。確認も取れている。
本家に特別待遇で嫁入りした人だ」
「よめ? お母さんが?」
「うん。君のお母さんは、本家の者と結婚している。
奪うとか、奪い返すという細かい事情は知らないから、僕に聞かないでくれ。
当事者のほとんどが居ないなら、今のところ証言者は連君の……お父さんだけになる事情だろう」
これって一番、厄介じゃないか。
詳しくは両親に聞いてね、と補足しづらい。
「まあ、その……お母さんの旧姓も知らない、かな」
興味のありそうな話題を出すと、京護が咄嗟に首を横に振る。
混乱からは、抜け出せたようだ。
「蔵馬っていうんだ。蔵に馬と書く。
だから、母親も君を巻き込んだ一人に入るだろうね、こちら側から見れば」
「くらま……」
反復する京護に、甚八は頷いた。
「今は知らない事の方が多いだろう。それで良いんだ」
甚八は自分に言い聞かせるように、京護にも伝える。
「コレが言った使うという言い方しかり、終わりなんてのは物騒だけど、真意は不明だ。
不明・分からないと、まずは結論づける。
そこから、じゃあどうするかを考えるんだ」
京護は徐々に俯き、折っていた両ひざに顔をうずめた。
考えることが多いだろう。
夜も更けてきたので、休ませてやりたい。
終始大人しいのが不気味な影は、ずっと二人の会話を、ただ聞いている様子だった。
興味がある情報なのかもしれないと、京護の腕に絡んだままの影の形状を改めて見る。
ヘビのような胴体に、別の生物のような四肢と角。シルエットだけでは判別付かないが、蛟かもしれない。
複雑な思考から一時的に逃げていると、京護が顔を上げた。
その顔立ちには、決意が見える。
「なら、おれは……先生に言わなきゃいけない事がある」




