序章・連 京護(14)の転換日 18
※昆虫・多足類描写があります。苦手な方はご注意。
影の言葉に、首を手で覆っていた甚八の息が一瞬詰まった。
「……つまり」
ごくりと生唾を飲み込んで、言わずにいられないまま言ってしまう。
「自分を殺した凶器を模造して、僕にも使った?」
【ソウダ】
「?!」
刀に気を取られた隙を狙うように、甚八の意識外になったヘビの影が、甚八にすり寄る。
【いい カタナ】
【いい イタミ】
影の声だけは、あちこちから響いていく。
【いい イイ いい】
【イイ から ツカウ】
甚八は首を守っていた手に、もう片方の手を重ねる。
切られたところで効果は無いのは実証済みだが、何度も体験したくはない。
「っ、あの、あなたの体は刺されたから死んだんですよね」
テーブルを伺っていた影のヘビが、足に絡まってこようとするので座りながら後ずさる。
【そうだ シンダ】
【しんだ アア しんだ ヒト お モシ ろい】
【アノ からだ シンダ】
「じゃあ、コレは、その時のモノと同じ存在なんですか」
これに反応したのは、京護だった。
甚八を見た後、刀越しのヘビを見上げる。
「……お父さん」
動きを見せたのは、耳元のヘビの影だった。
ゆらりと、頭を撫でるようにすり寄ると、ヘビの胴体からムカデのように足が生えていく。
その複数の足たちでガチリと、京護の頭を掴む。
同じように、他のヘビも形態を変え、京護に絡んでいた物は全て、足や首や胴を捕える。
「なんで、お父さ、ん、じゃないって事?」
ヘビからムカデになった正面の影の、腹面から、いくつもの小さな口が開かれる。
後は、さながら大合唱。
【わしら フシ】
【わしら シナヌ】
【からだ ヒト】
【わしら チガウ】
【わしら モドル】
【また モドル】
【もどる モドル もどる モドル もどる】
【テン てん テン てん おまえ ラ いう】
【わしら カエル】
【そして マタ くう】
【むすこ オマエ ちがう】
部屋中に響き渡らんばかりの声はピタリと止み、京護の足や腕、体に頭、首を掴んでいた影の足たちが、手となって更に増える。
ムカデの胴体、足は手。その小さく数多の手の影が、まるで血管の血液が循環するごとく、京護の肌に這っていく。
「お父さん、これ、嫌だ、これ、もう、嫌だ……、嫌?」
京護は不快感と共に、既視感を覚えて愕然とした。
京護の動揺が手に取る様に分かるのか、刀越しのムカデが、刀ごと京護の足元に消える。そして、京護の頭部にまとわりつく影から、細長い甲虫が1匹、生えた。
人の頭ほどの大きさの甲虫の触角が、京護の頬を撫でる。
【そうだ ムスコ】
【むすこ ネガウ わし ネガウ おなじ】
「違う、同じ願いじゃ、ない……」
数多の手を持つムカデが複数の甲虫となり、京護を覆っていく。
【だから ツカウ むすこ】
「違う、ちがう、ちがうっ」
【おなじ オナジ】
【おなじ シンダ ワシ おなじ ワシ】
【おなじ ダカラ ちがう ツカ いかた】
影の虫が一匹、京護の口に入った。
「ん、ぐっ」
うごうごと蠢く影に、またアレに主導権を奪われるのではと、甚八は戦々恐々と構える。
だが影の虫は、覆う影の面が増えるとピタリと止まる。
影の表面には一つの目と、一つの口。その二つが、甚八に向く。
【ひと クウ きえる】
口が一つ増える。
【ダカラ くわず ツカウ】
口がもう一つ、増えた。
【にく ホネ こころ キザ ん ダ】
目が割れ、口になる。
【わし ノ だと シバル おなじ ダ】
影が、最後に残っている京護の右手に触角で触れるなり、虫は全てその1匹だけになる。
影は常に京護の影と繋がっており、その虫も京護の影に消えた。
そして影は、愕然とする京護の背後の影から細い腕を生やし、心臓部分を掴んだ。
【むすこ ダ から デキタ】




