序章・連 京護(14)の転換日 14
「片付けてもらう清掃員のたちも、分家の人でね。
ベッドも整えて貰うから、その間はソファにでも居てて。
会いたくなければ、トイレかバスルームに居てて構わない。その人たちは本家の命令で居るから、清掃以外の事はしない」
早口でまくしたて、甚八は病室を出て行った。
出る間際、
「分家の者だけど、君の事も本家に起きた事も知らないんだ。できれば、巻き込ませないでくれると有難い」
こっちが本音だと分かった京護は、是も否も言えなかった。
買い物に出かけた甚八を見送り、ひとまず、トイレに籠ることにした。
「……出来るなら、こんな事になってないのに」
足元の自身の影を見下ろすが、反応はない。
「先生は、お父さんに言ったのかも」
病室に向かう足音が聞こえたので、慌ててトイレに入る。
扉の向こう側では、二人分の足音と色んな道具の音が立てられる。手際は良さげで、会話は無い。
ほどなくして扉が閉まったので、そっとトイレのドアを開けた。
跡形もなく綺麗になった、消毒の匂いがする床をぼんやり眺めていると、入れ替わる形で甚八が戻ってきた。
ガチャッと、清掃員とはうって変わった乱暴な音なのは、両手が塞がっていた為だ。
「助かった~、下のコンビニがまだ開いていたし食べ物も残ってたよ。ほら」
両手に二袋ずつ持っていた様に、京護は固まった。
少年の驚きも気にせず、甚八は我が物顔で、部屋の奥にあるソファに歩いていく。
ローテーブルに3袋置いた甚八は、残りの1袋を持って冷蔵庫へ。
「アイスはこっちに入れておくね。なんの味が好きか分からないから、買えるだけ買っちゃった」
「買えるだけ?」
「買えるだけ。全部、連君のだよ」
全部、と口の中で繰り返す。
ソファに戻ってきて、袋から次々と出していく。途中、カフェオレの容器にストローを刺して、飲みながら広げる。
「あ、連君のはこっち」
スポーツドリンク・紙パックのオレンジジュース・ゼリー・ヨーグルト・果物の缶詰・レトルトのおかゆ・お茶のペットボトル。
「あとはカットフルーツのパックと、豆腐バー。冬なら蜜柑やおでんもあるんだけどね。今はまだ無くて」
「多い」
「連君はずっと寝ていて点滴だったから、ちゃんと病院食も食べて無かっただろ。
最初は消化に良いものにしたよ、足りる?」
「……多い」
「そう? 食べ盛りだからと思ったけど」
ちょっと待っててと、飲み干したカフェオレの容器を置く。
「糖分は後にしたいから、最初はおかゆね。炭水化物と水分補給だよ」
弁当とレトルトのおかゆを持って、甚八は冷蔵庫の横にある電子レンジに行った。
塩サバ弁当と貼られたビニールを剥がし、電子レンジで温める。
その間に、水回りの上の棚を開ける。病院で使う物と同じお椀とスプーンを一つずつ出し、パウチから開けたおかゆを入れた。
チン、と軽快で聞きなれた音を立てたレンジに、入れ替わりでおかゆを入れた椀を入れる。
「やっぱり個室って便利だよね」
答えに迷っている間に、温めが終わった。
慣れた動作で戻った甚八から、ぬるめのおかゆとスプーンを手渡される。
「どうぞ」
「う、うん」
両手で受け取った京護は、すぐには食べずに、椀を眺める。
一方の甚八は、割りばしを割ってソファに座る前も、ひょいひょいと袋の残りをテーブルに広げる。
副菜がいくつも出てきたが、主に、甘い物が多かった。
「……先生て、いつもこれぐらい食べるの」
「うん。え、普通じゃない? 医者は体力勝負だし。頭も使うから糖分も欲しい。なのにしょっちゅう食べるタイミングなくしてね」
吐いたから余計に空っぽと言いかけて、それは米と一緒に飲み込む。
「食べたいのあったら食べていいよ。三食団子はまだ胃に重いから、それ以外ね」
「いい……。見てるだけで、お腹いっぱいになってきた」
自身のお腹を抑えて答えていると、甚八は医者の顔で返した。
「おかゆだけでも頑張って食べようか」
「食べたら、果汁100%のオレンジジュースもあるよ」
目の前に紙パックが置かれた。
その横にカットフルーツのパックが、付属品のごとく添えられていた。
よく見ると、パックの横には自分用にと出された残りの食品が、列をなすように並べられている。
「……おかゆだけでも?」




