表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/17

序章・連 京護(14)の転換日 12

 静かになった空間で、甚八はまず京護を病室のベッドに寝かせた。

 呼びかけに最初こそ反応しなかったものの、数分で意識が戻ってきた。

 失神だろうと思いたいが、声かけの反応は鈍い。

「連君、様子は……」

 ぼんやりと天井を見ていた京護の目から、涙がじわりとにじみ出た。

 音のない部屋で音もなく。声もあげず、涙が零れていく。

 子供の泣き方じゃないなと、甚八は、悲痛さを隠して状態の確認をしていく。

 脈拍をはかり、ソファにあったクッションを足に置く。

 京護は大人しかった。

 さて、吐しゃ物の処理をしようとした時、ベッドからひきつった声がした。

「は……」

 すぐにダンと、京護が拳でベッドを叩く音がした。起き上がろうとするので、慌てて甚八はベッドに戻る。

「連君、急に動かないで。めまいを起こしたら大変だから」

 事実、起き上がったものの、眩暈を起こした。

 甚八は、俯いてベッドに手をつく京護の背中に手をそえる。

 抵抗はない。存在を、気にしていないのだ。

「は、……くそっ」

 ダン、ダン、と行き場のない感情で叩く手を包むようにして塞ぐ。

「怪我をするよ」

 叩くのは止めた。それでも京護は、声をひきつらせて泣きながら笑う。

「はは、今更そんな怪我なんて」

「だめだよ。これ以上傷をつけちゃ、だめだ」

 どうしたのかと困惑している甚八を、京護は、笑う口を閉ざして見上げた。

 細く、弱い体なのに、少年の瞳には甚八にはない意思があった。

 知らない事を、知っている目だ。

「連君」

「ようやく分かった。お父さん、おれを使ったんだ」

 使った、という言葉に、京護の手を塞いでいた甚八の手が震えた。

「おれを使って、あそこに居た人たち殺したんだ。おれが、何もかも無くなってしまえって言ったから……おれがっ」

 敵わないのも構わず、ベッドや枕、甚八にも手を上げようとした。

「なんでこんな……痛くて苦しい事から、怖い事から逃げたかっただけなのにっ」 

 行き場のない感情だと分かっている甚八は、時間をかけてなだめる。

 触れすぎないように、言葉をかけすぎないように。そして、自傷行為に走らないように、気を配った。

 嗚咽混じりに京護は、知った故の悲鳴を吐露する。

 本当は、もっと前に、こう叫びたかった。

「おれ、っ……おれの体、俺以外の奴の物にされてばかりだ……」

 叩く代わりに、持てる力でシーツを強く握り込む。

「おれ、なんのために生まれたんだ」

 かける言葉を持たない甚八は、京護の背中を撫でていたのを一度止めてから、また触れる。


【わしの オンナ のぞん ダ】


 京護が俯いて出来た影から、目玉が開かれた。


【ふつう オンナ のぞん ダ】


 甚八はびくりと動揺するも、京護は動かない目を凝視する。

 影を見下ろす少年には、目覚めてからまとっていた、おどおどとした様子は無かった。

 京護は、発作的に爆発した感情を押し込めて、もう一つの本音を尋ねた。

「お母さん、生きてる?」


【さがす】


 生きているとは答えなかった。

 死んだとも、殺されたとも、言わなかった。

 影は、知っているのだ。

 京護を使うに至る経緯を。その、結果を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ