序章・連 京護(14)の転換日 10
「……あなたは、僕の父を知っているんですね」
口の中が気持ち悪いが、言ってられない。
甚八は、影と意思疎通が図れたら訪ねたい事があったのだ。
父の責任を取りたい、と京護に言ったのも、これからの質問があっての事だった。
「教えてください。父は何をしたために、死んだんですか」
どこを見ているか分からない影は、甚八の正面に立ったまま沈黙している。
答えを待つ間、影が手にしている刀を覗き見る。あれに刺されたのだと、ぶり返す恐怖で首元をさすった。
【「あいつの子供。あの家の奴で知らないはあるのか」】
「え?」
【「ワシを殺して俺の女と俺の子を奪った、男の傍にいた奴の子なのに知らないなんてあるのか」】
言われた言葉は、空耳かと思った。
「……は、は?……殺した? 誰を?」
【「ワシ。殺された時は最高に面白かったぞ」】
何一つ表情は読めないが、声は弾んでいた。
つまり、事実なのだ。
「あなた……死ねるんですか」
抱いた印象通り、ではこれは亡霊かと仰ぎ見る。
影は刀の切っ先を床に刺し、柄を握ったまましゃがんだ。
【「人間のナカに居ればな。殺せる奴はいないから初めてだった」】
目線は合わない。
影は今の姿になって以来、目も口も腕も何も生やさず、変化がない。
だが、今の姿が一番、恐ろしい。
ハッキリとした共通言語で話し、会話が成り立っている。
だのに内容が、聞けば聞くだけ後戻りのできない袋小路へ手招くものばかり。
知らないままの方が、きっと、良かった。
甚八は、口内に残る胃酸の気持ち悪さごと、後悔を飲み込む。
「人間だった? それともナカと言うからには、振りをしていたと」
【「お前本当に知らないな。食ったから成った。それだけだ。今回は一番綺麗に食ったのにバレた。稀に面白いからお前らは飽きない」】
それだけ、という末尾のセリフだけを、甚八は脳内で繰り返す。
それだけ?
それだけってなんだ?
それだけの事なのか?
それだけに至る経緯はなんだ?
食ったから成った。
食ったから人間になった。
それだけ。
「………………なんてものを………………」
誰に向けるか分からないまま、罵詈雑言を吐きたくなった。
同時に、こういう存在だと知っていて、本家も分家も関わってきたのか疑念が湧いた。
【「お前はワシに自己紹介していたな。ワシもしてやろう」】
こうか、と言って胸に手を当てた。
【「京護の母親である俺の女には、連守と名乗っていた」】
【「ワシが食った男の名だ」】




