天空再配達!? ドラゴン便との合同任務
王都の北端からさらに彼方、空を切り裂くように聳える巨大な大樹。
枝の先には浮遊する島々が連なり、その頂には天空都市が築かれていた。
「……あそこか。今回の届け先は」
俺は端末を確認する。
【依頼品:天空の大樹ティータイム用“冷蔵便”】
【届け先:天空都市・大樹の頂】
【時間指定:午後のティータイムまで】
「アイスクリームのティータイム……いや、優雅すぎだろ」
ため息をつく俺の肩を、フェアリー便がぴょこんと叩いた。
「でも可愛い依頼だよねぇ♡」
「問題は“冷蔵便”ってとこだ。時間切れしたらドロドロだぞ」
そこへ、大きな影が空を横切った。
バサァァッ!
「フハハハ! 空輸なら俺に任せろ!」
巨大な翼を広げ、鱗を煌めかせながら現れたのは――ドラゴン便。
紅い眼光をぎらりと輝かせ、自信満々に俺の目の前へ降り立った。
「お前が……ドラゴン便か」
俺は呆れ半分で見上げる。
「その通り! 俺の翼なら10秒で天空都市に着く! 氷菓子など瞬く間に届けてやろう!」
「……10秒で着いたら逆に溶けるんじゃねぇか?」
俺が冷静に突っ込むと、フェアリー便が笑いをこらえきれずに宙で転げた。
「配達はスピードだけじゃない。ルートと、何より荷物の扱いが大事なんだ」
俺が真面目に釘を刺すと、ドラゴン便はフッと鼻を鳴らす。
「人間風情が俺に指図するか? だがまぁいい、今回は合同任務とやらだ。お前の“慎重”と俺の“最速”、どちらが真の配達か決めようではないか!」
「……面倒なことになりそうだ」
俺は頭をかきながらも、端末を操作してルートを設定した。
こうして、天空都市への冷蔵便配達――人間配達員とドラゴン便の奇妙な合同任務が始まった。
「よぉし! 積み込み完了だ!」
ドラゴン便は大きな爪で冷蔵便の木箱を抱えると、翼を広げて一気に空へ舞い上がった。
「お、おい待て! まだルート説明が――」
俺の叫びも届かず、空を裂く轟音とともに上昇する。
「フハハ! 俺の翼ならば風をも従える!」
得意げに口を開いた瞬間――ゴォォォォッ!
「ちょっ……やめろ! 火炎ブレスなんか吐くな!」
吐息の熱波に晒され、木箱の表面が一瞬で焦げ付く。
蓋の隙間から、白い煙のように冷気が逃げていくのが見えた。
「な、なんだこの熱……」
フェアリー便が慌てて木箱にしがみつく。
「これアイスだよね!? 完全に溶けかけてるじゃん!」
「バカ野郎! 冷蔵便に火は致命的だろ!」
俺はドラゴン便の背に飛び乗り、必死に箱を押さえ込んだ。
そこへ、追い打ちのように強風が吹き荒れる。
「……っ、この高さ、やっぱり気流がヤバい!」
暴風で荷物が揺さぶられ、今にも落ちそうになる。
さらに、空の群れを切り裂くように巨大な影が現れた。
翼を広げた魔鳥の群れだ。
「カァァァァッ!」
「うわっ、こいつら……積荷狙いか!?」
ドラゴン便は咆哮する。
「俺を誰だと思っている! 空の覇者だ!」
「だから火を吐くなって言ってんだろーが!」
俺の絶叫をよそに、ドラゴン便は再び炎を吐こうと口を開いた。
熱気でアイスの箱がグラグラ揺れ、今にも崩壊寸前。
「くそ……このままじゃ荷物が全部水になる!」
俺は端末を構え、決断した。
「シンクロで冷やすしかねぇ!」
次の瞬間、俺の体が淡く光り始めた――。
「《荷物シンクロ》!」
端末が光を放ち、冷蔵便の木箱から冷気が一気に噴き出した。
次の瞬間、俺の体にひんやりとした感覚が広がり、肺の奥まで凍り付くような冷静さが満ちていく。
【シンクロ対象:“冷蔵便”】
【効果:冷気耐性/精神安定】
「……なるほど。氷のように頭が冴える」
俺は震える声で呟き、手元の箱を押さえ直した。
「ぬっ……貴様、凍気を纏ったな!?」
ドラゴン便が驚いたように振り返る。
「お前の炎じゃアイスは守れねぇ。俺が冷やしながら進路を指示する! お前は風を裂いて飛べ!」
「人間ごときに指図されるとは……」
ドラゴン便は一瞬ためらったが、すぐに牙を剥いて笑った。
「面白い! ならばやってみろ!」
俺は端末を操作し、空に光のラインを走らせた。
「《ルート開拓》――最短航路、嵐を避けるルートだ!」
光の道筋が現れ、魔鳥の群れを避ける最適コースが示される。
「右へ十度旋回!」
「了解!」
ドラゴン便が大きく翼をはためかせ、光のルートへ滑り込む。
嵐の渦をかすめ、魔鳥たちの爪をかわし、俺は冷気のバリアを広げて荷物を包み込んだ。
「おおっ……! 本当に溶けない!」
フェアリー便が歓声を上げる。
「これが……合同任務か!」
ドラゴン便の瞳に興奮の光が宿る。
「炎と氷、最速と冷静……悪くない組み合わせだ!」
「いいから前見ろ! 大樹の頂が近いぞ!」
夕陽に染まる雲海を突き抜け、俺とドラゴン便は光のルートをまっすぐ駆け上がった。
雲を突き抜けた先、天空の大樹の頂には白亜のテラスが広がっていた。
住人たちが集まり、午後のティータイムを心待ちにしている。
「お届け物でーす! 冷蔵便、時間通り!」
俺は木箱をテラスの中央に置き、端末を操作する。
ピコン。
【配達完了】の表示が輝き、住人たちの拍手が湧き起こった。
「おお……! 本当に溶けていない!」
「これでティータイムが盛り上がるぞ!」
歓声と笑顔に包まれ、俺は胸を張って一礼する。
横でドラゴン便がドンと胸を叩いた。
「フハハ! 俺の翼とお前の冷気、悪くなかったな!」
「お前の炎がなきゃもっと楽だったけどな」
俺が呆れ混じりに返すと、ドラゴン便は牙を見せて笑う。
「だが認めよう。お前の冷静さ、そして配達への執念……それは俺の誇りに並ぶ」
「……仲間ってことでいいか?」
俺が差し出した手を、ドラゴン便は一瞬ためらい――そして爪で握り返した。
その時。
「お、おえぇぇぇ……勇者は……高みを目指すもの……だ……」
テラスの隅で、勇者アルトが真っ青な顔で転がっていた。
どうやら無理やりドラゴン便の背に乗ったらしいが、飛行酔いで完全にアウト。
「勇者様ぁ!?」と聖女が慌てて駆け寄るが、アルトはぐったり。
「……勇者って、意外と耐性ねぇんだな」
俺が呆れると、住人たちの笑いが空に響き渡った。
こうして天空都市への冷蔵便は無事完了。
新たな仲間・ドラゴン便との絆も芽生えたのだった。
次回 「重量物地獄!? ゴーレム便と大規模輸送」